File.76 フィリップ・ノワレ氏 逝く

2003年5月17日、フランス・カンヌ映画祭でのフィリップ・ノワレ氏(AFP)
フランスの名優・フィリップ・ノワレ氏(Philippe Noiret)が11月23日に逝去されました。ガンのために闘病生活を続けていたことは知っていましたが、享年76歳は現代社会においてまだまだ現役と思える年齢だけに悔やまれてなりません。
フランス芸能界を代表する俳優の死に際し、シラク大統領は以下の声明を発表しました。「偉人が去った。舞台、映画界において、我々を魅了した一流の俳優だった」
ドビルパン首相も「フランス人の精神をとらえ、表現するすべを知った俳優だった。フランスの演劇界、映画界の誰もが喪失感を覚えている」との声明を出しました。
フィリップ・ノワレ氏は1930年にフランス北部ノール県リールに出生、演劇学校卒業後は舞台活動に専念し1956年映画界に進出。ルイ・マル監督『地下鉄のザジ』(1960)で一躍有名になりました。その後は『追想』(1975)と『素顔の貴婦人』(1989)で2度のセザール主演男優賞受賞という偉業を達成し、出演作品はゆうに100作品を越えるフランス映画界を代表する俳優の地位を確立しました。
日本においては『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)で演じた映写技師役で広く知られ、思慮深い詩人を演じた『イル・ポスティーノ』
(1994)でもおなじみですね。
当サイトは映画館と映画業界の話題を中心に記事をお届けしておりますが、映画作品のなかで最も有名な映写技師を演じた名優の訃報に接し、真に悲しく感じております。『ニュー・シネマ・パラダイス』を観て映画館スタッフや映写スタッフを志した人は数知れず、映画館勤務者にはこの作品が大好きな方が大勢いる愛されている映画です。作品の魅力はもちろんですが、氏の演じる映写技師の存在があったからこそだと思います。
『ニュー・シネマ・パラダイス』は私も好きな映画でいつかご紹介しようと思っておりましたが、今回このような形で記事を書くことになるとは…寂しいです。まだ未見の方にはぜひご鑑賞をおすすめいたします。通常版と完全版の2種類がありますが、通常版のほうが最初に観るには良いと思います。
当時弱冠29歳のジュゼッペ・トルナトーレ監督の手で作られたこの作品で、ノワレ氏はシチリア島の小さな村にある映画館の映写技師アルフレードを演じています。映画館の名はパラダイス座と言い、村の広場に建つ唯一の娯楽の場でした。そこに通いつめる映画が大好きな少年トトとの交流と成長、そして別れを映画の変遷を交えてノスタルジックに描いた作品となっています。エンニオ・モリコーネ&アンドレア・モリコーネによって綴られた「愛のテーマ」に包まれて迎えるラストシーンは有名ですね。
アルフレードは一見すると頑固で気難しい男ですが、実は誰よりもトト少年と映画を愛していて、二人の世代を越えた友情が見る者の気持ちを温かくさせます。また映画館に通うお客さんの姿が実にユーモラスで、昔の映画館の風情を情感豊かに描き出しているところも見所のひとつ。
映写スタッフにとっては古い映写機の動作や昔の映画上映風景が見られるのが興味深いですね。そして戦後間もないこの時代と、現代の映写業務にほとんど違いがないことに驚かされるのです。ノワレ氏が作り上げたアルフレード像を見ることで、現代の映写スタッフも考えさせられることが多々あるかと思います。
日本での公開は製作翌年の1989年12月16日に東京のシネスイッチ銀座でスタートしました。40週間のロングランで観客動員27万人、興行収入3億6千万円を記録。単館作品としてはいまなお破られることのない大記録で、作品の根強い人気を如実に表しています。
昨年はデジタル・リマスター版が劇場公開され、フィルムを使わないDLP上映が物議を醸しました。映画への愛、フィルムへの愛が詰まったこの映画をリマスター版とはいえデジタル映写にするのはいかがなものなのか、との声を当時あちらこちらで耳にしました。そういえば作品中、不燃性ポリエステルベースフィルムが登場する場面でアルフレードが「進歩はいつも遅すぎる」とこぼしてましたね。フィルム映写とDLP映写の違いが作品の本質に影響することはないと思いつつも、この映画はやはり…フィルムで観たいと私は思いました。
そのフィルム上映の機会がもうすぐやってきます。東京都町田市にある町田映画劇場が閉館セレクションとして12月2日から12月8日まで『ニュー・シネマ・パラダイス』(通常版)を特別上映するのです。東京近辺にお住まいの方はスクリーン+フィルム映写を堪能できる貴重な機会ですよ。
奇しくも主演のノワレ氏が逝去された直後で、氏と町田映画劇場のお別れ上映となってしまいますが町田市のパラダイス座とも言えそうな劇場の最終上映プログラムになったことに縁を感じざるをえません。『ニュー・シネマ・パラダイス』については日を改めて再びご紹介できたらと思います。
映画と共に生き、多くの映画ファンに愛されたフィリップ・ノワレ氏。彼の姿は今後も数多くの出演作と共に生き続けていくことでしょう。心よりご冥福をお祈りいたします。
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コメント
そうだったのですか。知りませんでした。
何かとても大切な人がいなくなってしまったという感じがしてなんとも哀しく寂しいですね。
「ニューシネマ・パラダイス」も「イル・ポスティーノ」も大好きで忘れられない作品です。
「ニューシネマ・パラダイス」の映画への讃歌ともいうべきストーリーと描写は今も心に強く残っています。
映画が本当に人々の娯楽だった時代。
そしてあの素敵なラストシーンには涙が止まりません。
映画のすばらしさを伝えてくれてありがとうと心から感謝しつつ、私もご冥福をお祈りします。
いつまでも忘れないでいたいですよね。
投稿: Angelita | 2006年11月27日 (月) 01時16分
はい、自分にとってはいつまでも忘れられない役者さんです。思えば映画(映画館)に興味を持つきっかけをつくってくれたのは『ニュー・シネマ・パラダイス』だったかもしれません。VHSで販売されているのを知って買ったものをいまでも大切にしています。
映画が娯楽だった時代のパラダイス座全盛期から、成人映画館へと様変わりして閉館していく様子は胸が痛くなるのですが、映画の持つ力が結実するラストはこみ上げるものがあります。
この映画、映写的に見ると違った点で興味深いんですよ。トルナトーレ監督は映写に関する描写もしっかり表現されています。そのへんはまた日を改めて紹介したいですね。
投稿: 管理人:月夜野 | 2006年11月28日 (火) 00時34分
月夜野さん、コメントありがとうございました。TBさせていただきました。
昨年『ニュー・シネマ・パラダイス』のDLP上映なんてあったんですか。う~ん、それはちょっと・・・。確かに物議をかもすでしょうね。
まあ実際に見てないので、なんともいえないんですが。
映写という視点からの「ニュー・シネマ・パラダイス」評、楽しみにお待ちしてますね。
投稿: TARO | 2006年11月28日 (火) 13時41分
TBありがとうございました。
「ニューシネマパラダイス」のデジタル・リマスター版は、とにかく映画館で観られるのがうれしくて、観に行きました^^
クレーム?があったとは、知りませんでした。でも、デジタル化することで(←言葉遣いがおかしかったらすみません・汗)、この作品が色あせずに末代まで残っていくのだったら、うれしいことではないのかなぁと思いました。
月夜野さんは映写技師さんでいらっしゃるのですか?
また寄らせていただきますね^^
友だちが立川のシネマツーに関わっていて、「音響がものすごく良いから行ってみて!」と言われているのですが、ちょっと遠くて、未だに行けずにいます(^_^;)
投稿: chobi | 2006年11月28日 (火) 18時28分
TAROさんこんにちは。
フィルムが重要な脇役を果たしている映画なのでデジタルデータ上映は味気ないようにも思います。これは同じ作品であっても記録・上映媒体の違いが鑑賞者の意識に作用する点で興味深いところです。
映写視点からの『ニュー・シネマ・パラダイス』、ぜひご紹介できたらと思います。作品評ではなく映写や映画館業務と絡めて紹介したいです。
投稿: 管理人:月夜野 | 2006年11月28日 (火) 22時23分
chobiさん、ご来訪ありがとうございます。
リマスター版をご覧になったのですね。フィルム版とは違った質感だと思いますけど、たしかにデジタル化することでこの作品が末永く残っていくことを思うとそれもアリかな、と思いました。
フィルムが燃える場面など、映画フィルム自体は永遠ではないけど、その作品が持つ力は不滅というメッセージが印象に残る映画なので、私自身はデジタル上映は懐疑的でしたが、そう考えるとなるほどと思います!
縁あって映写を中心としたこのサイトを細々と運営しております。
CINEMA・TWOは素晴らしいです。世界でここしかないオリジナルのKICリアルサウンドシステム採用で非常に解像感ある音響ですね。個人的に贔屓にしている劇場なのでご友人が関係者様なのはとてもうらやましいです!!ぜひご友人様に拙サイトをご紹介してください^^;
マニアックな内容ですけどまたいつでも遊びにおいでくださいませ。ありがとうございます。
投稿: 管理人:月夜野 | 2006年11月28日 (火) 22時32分
TBありがとうございました。ノワレさんが闘病されている事も知らずに聞いた訃報のニュースでしたので、ショックでした(--、) 「ニューシネマパラダイス」大きなスクリーンで観たくなりました☆ 映画大好きなのでまた遊びにきてみます。
投稿: book | 2006年11月29日 (水) 01時43分
みなさんもそうでしょうけれど、ニューシネマ・パラダイスには泣かされました。
主人公に自分の子供時代を重ね、フィリップ・ノワレ演じる映写技師に、地元の古ぼけた映画館のオヤジの優しさを想い出させられました。上映の終わったポスターをわざわざ取っておいてくれたこともありました。
名優が亡くなったのは残念ですが、映画はこれからもボク等を楽しませてくれることでしょう。
投稿: TAO | 2006年11月29日 (水) 22時28分
bookさん、ご来訪ありがとうございます。
当方も突然の報にショックを隠しきれず…この記事を思わず書きました。『ニュー・シネマ・パラダイス』をこのような形で紹介するのは寂しいですね。
マニアックな内容ですけどぜひいつでもお越しください!
TAOさん、ご来訪ありがとうございます。
この映画は感情移入する相手が人それぞれあって、深みを増しているように思います。トトとアルフレードはもちろんですけど、トトの母親やアルフレードの奥さんなどにも思いを寄せている人は多いと思います。
逝去は残念ですけど、残された作品を大切にしていきたいですね。
投稿: 管理人:月夜野 | 2006年12月 1日 (金) 22時00分
月夜野さん、こんばんは。
いつもはクオリティ優先でシネコンへ行く自分ですが、まちえいの
閉館セレクションで「ニュー・シネマ・パラダイス」を見て来まし
た。フィルム版を見ることができたのはこちらでご紹介いただいた
おかげです。ありがとうございました。
フィルムが有形であるがゆえの良さと儚さを感じつつ、ノワレ氏の
ご冥福を心よりお祈りしたいと思います。
投稿: マモラ | 2006年12月 2日 (土) 23時40分
マモラさん、こんにちは。
まちえいでご覧になったのですね。消え行く映画館で観ると感動もひとしおのことでしょう。
フィルムが燃える、フィルムが回る、フィルムが遺され…有形であるが故の良さと儚さとの表現、その通りだと思います。
映画館で上映する際は上映終了後に次の回までにフィルムを最初まで巻き返すのですが、こういったアナログ作業(青年のトトがやってますよね)もフィルムならではです。
イオンシネマ高崎でDLP版も上映されています。こちらもぜひ(笑)。
投稿: 管理人:月夜野 | 2006年12月 3日 (日) 23時02分
こんにちは。
『ニュー・シネマ・パラダイス』一日一回の上映なのにも関わらず、沢山の方に観に来ていただいています!
月夜野さん、まちえいを紹介してくださって、ありがとうございました。
私も昨日、お客様と一緒に観ました。
やはり、泣いてしまいました。
実は、昔ビデオで観た時はそんなに何も感じなかったのですが、映写に関わったからなのでしょうか。こみあげてくるものがありました。私自身の年齢もあるのでしょうが…。
この作品を上映できている事、とても誇らしいです。
投稿: まちえいこ | 2006年12月 4日 (月) 14時43分
まちえいこさん、こんにちは。
動員も好調のようでなによりです。いよいよ残すところあと1週間あまりになりましたね。私は『ニュー・シネマ・パラダイス』の上映には都合が合わず行けませんが、多くの方に楽しんでもらえたら良いですね。
映写に携わる者が見ると特定の場所で琴線に触れるところがありますね。これは他の映画ではあまりないポイントだと思います。
閉館までにあと一度はまちえいまで遠征できたらと思います。楽日まで頑張ってくださいね!
投稿: 管理人:月夜野 | 2006年12月 5日 (火) 23時35分