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2007年2月21日 (水)

File.83 映画館設備マニア

前回のFile.82 映画館マニアに続いて、映画館マニア記事の第二弾です。

シネマコンプレックス(複合型映画館)によく出かける方はお気づきかと思いますが、近年の映画館における映写設備の向上はめざましいものがあります。大手シネコンを中心として作品の力を存分に引き出すための様々な設備・工夫が施されるようになり、映画館は単に映画を鑑賞するのではなく「体感」する施設へと変貌しつつあります(参照 File.61 東西最新シネコン)

同時に増加しているのが今回ご紹介する映画館設備マニア。彼らは映画館で映像や音響の性能を独自判断し、高性能で好みに合う映画館を探している人々で、そのなかで中心的存在となるのが音響マニア、映画館の音響に対して一家言を持つタイプです。

一般的に理解しがたい世界かもしれませんが、音響マニアと自認するほどの人になれば気分や作品に応じて映画館を使い分けるようになります。同じ作品でも映画館によって音や映像の再現能力が異なるために、自身の経験から作品にマッチするであろう映画館を独自に選出してわざわざそこに出かけて行くのです。彼らにとって映画を観ることと同時に「この作品をこの劇場で観る!」という強い動機が存在するんですね。

さらにのめりこめば映像と音を愉しむために同じ作品を複数の映画館で見比べに出かけることもあります。映画を楽しむと共に、同一作品を違う劇場で見比べて映画館の上映クオリティを判断するのです。同じ作品を違う劇場で見るということは比較対象を設けることとなり、劇場の性能や個性を明確にチェックする基準となります。違う劇場で見なければ音響の良し悪しが作品によるものなのか、劇場性能によるものなのか判別しにくいため客観的にチェックする良い方法と言えるでしょう。

ここまでお読みになって「信じられない!」という方も大勢いらっしゃると思います。しかし映画館ごとの音響性能は軽視できないほどの格差があることは事実で、音響制作者が満足に足る再生能力を持ちうる劇場は多くはなく、それらの劇場で鑑賞する作品は音声だけでも説得力を感じさせる力を持ち得ています。ハリウッド大作映画では音の制作にも多くの時間が割かれ、入念に音響が創り込まれているのを実感することができます。

映画館と一口に言っても設備水準や映写性能には大きな差異が存在していて、とくに現行のデジタル音響を効果的に再生するには音響学、映画音響学、建築音響、室内音響、電子工学などを踏まえた劇場設計が不可欠となっており、最新の映画館はこれらを踏まえた綿密な配慮がなされていますが、それでも劇場ごとの性能差は歴然と存在しています。つまり、最新のシネコンでも必ずしも完璧ではなく、逆に従来の映画館でも優れたサイトは存在するということです。

映画館設備マニアはそういった高品質な映画館をインターネットの口コミや劇場の設備内容から予測して出かけていきます。ディープな人だと音響と内容に期待をかけている作品であれば新幹線や航空機を使ってまで遠路の劇場に遠征していくことすらあるんですよ。
そんな遠征音響マニアを最も多く生み出したであろう映画はやはり『スター・ウォーズ』シリーズ。1977年の第一作から常に最新最高の映像音響技術を投入し続けたハイテク映画で、映画音響の新たな次元を切り拓いたTHXの生みの親としてもこれは疑う余地がありません。日本からアメリカの劇場まで遠征しに行ったファンの武勇伝を何度も耳にしたものです。

その一方で『スター・ウォーズ』の上映は映写係にとって非常にストレスのかかる作品でもありました。『スター・ウォーズ』は音響マニアでなくても熱狂的ファン層の厚みがあり、そのうえ音響に対しては特に厳しい音響マニアがウジャウジャ観に来るので(笑)、THX認定シアターともなれば絶対に映写事故は許されない状況に追い込まれていましたね。最終作のエピソード3は全国でデジタル上映設備に不具合が頻発し、悲劇的な状況に陥った映画館もあったようです。

お話しを戻します。

映画館設備マニアの多くは音響を重点的にチェックします。ホームシアターシステムの流行で家庭でもサラウンド音響(スピーカーを並べて音がグルッと自分の周囲を回ったりするやつです)が手軽に楽しめるようになったことから、家庭用機器から本物の映画館のサラウンド音場に興味を持った方も少なくないようです。また映画音響のデジタル録音による高音質化に伴い、ピュアオーディオから転向してくる人もいます。
しかし映像や映写技術に対してチェックを入れる人は少なく、映像よりも音響に興味がある方が多いようですね。映画館音響マニアに比べると映画館映像マニアは少数派と思われます。
映画は映像あってのものなので、もっと映像にも興味を持っていただきたいと思うこともしばしばです。

以前は音響再生方式(SRDやdtsなど)の違いがマニアの間では注目されていましたが現在はSRD(ドルビー・デジタル)での上映が主流のため、再生方式にこだわりを見せる人は少なくなりました。
むしろ最近乱立傾向にある、
映画館独自のオリジナル劇場規格に注目が集まっています。ルーカス・フィルムが確立したTHXを筆頭にそれにならって構築されているものがほとんどですが、各映画館が工夫を凝らして開発しマニアの心をくすぐっています。規格ごとに個性もあるので聴き比べる楽しみ、劇場選択の幅が拡がることでもこういった劇場規格は歓迎されていますね。劇場設計を重視して設備を前面にPRする興行会社も増えてきました。

こうして映画館マニアの間で評判の良い映画館が口コミで広がっていきます。音響マニアの方ならいくつかリストアップすることができるのではないでしょうか?
ただし
重要なのはマニアに評判の良い映画館が必ずしも良い音・良い映像の映画館とは限らないということです。

音響には個人の嗜好が大きく関わるため、人によって判断基準が全く異なります。料理の評価が個人の味覚によって異なるように、映画館の性能も個人の評価基準によって変化するのです。よって本当に良い映画館というのは最終的に自分の好みにマッチした映画館ということですね。

映画館設備マニアや映画館設備については触れたいことも多くあるので、日を改めて少しづつご紹介したいと思います。劇場設備に関心を持つ方がもっと増えることを願うと共に、今お読みの方のなかに映画館設備マニアの方が少なからずいらっしゃれば個人的に嬉しく思います。

けれども映写をする人間にとっては映画館設備マニアは実は恐怖の対象! 劇場入口の機材表示、場内でスピーカー等の機材をチェックしている人を見かけるたびに戦々恐々であります。映写品質にご満足いただけなければインターネット上で何を書かれるか分かったものではありませんからね。そういった面では監査役とも言える存在なので映画館のクオリティ向上のためにも映画館設備マニアはもっと増えてほしいと思います。

次に音響マニアが活発に動き出すと予想される作品は2007年5月5日に公開予定の『スパイダーマン3』。セリフの録音やアクションシークエンスのサウンドデザインが作り込まれていることと、いまや希少価値となりつつある「SDDS」と呼ばれる音響方式での上映が期待されるため鑑賞館を模索している人もいると思われます。

今回は専門用語も多数交えたマニアックな内容となってしまいましたが、あなたも映画館マニアの扉を開いてみませんか。映画の楽しみ方がまたひとつ増える…かもしれません!?

コンパニオン5

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コメント

最近はDTSもSDDSも数少ないのですか?
dtsに関してはSRDにとってかわるんじゃないかと思っていただけに 驚きです。

スターウォーズエピソード1でSRD-EXが導入されたんじゃなかったでしたっけ。
このシステムを入れないとスターウォーズは上映させねぇと圧力がかかったとの噂もききましたが・・・。

音響マニア 映像マニアともども 映写技師側としてはありがたい存在でもあり 気を抜けない存在でもあり・・・
フクザツなところですよね。

投稿: けた | 2007年2月22日 (木) 22時26分

けたさんこんにちは。

dtsもSDDSも少数派になっています。
ユナイテッド・シネマは以前よりdtsを採用していませんしワーナー・マイカルも最近は不採用です。頑張って導入しているのはMOVIXくらいでしょうか。音源の頒布数が少ないため、しかたないことかもしれません。

SDDSはデコーダーの生産が終了しているようで新規導入はもうないとのことです。デリケートなシステムでしたが音質には定評があったので惜しいですね。

ルーカス監督が『エピソード1』公開時にEXの普及にハッパをかけてましたね。懐かしいです。いまのドルビー・プロセッサーはEXデコーダーが内蔵されているので、EX作品は自動的に6.1ch再生になるようにできています。けたさんが勤務していたころはまだSA10の頃かもしれませんね。

マニアの存在は重要だと思います。映写マンより厳しかったりしますから(;_;)マニアの方のお話を聞くと、映画館がお好きなのが伝わって嬉しくなりますよ!

投稿: 管理人:月夜野 | 2007年2月22日 (木) 23時48分

SDDSのロゴトレーラーが好きだったので もう流行ってないなんて寂しいです。
あのロゴトレーラーは何パターンあったのかは知りませんが うちの劇場で主に使っていたのは人が画面の端から端まで歩く(?)もので こつこつ・・・という音がとてもスムーズに流れて さすがSDDS!と感動したものでした。
今SONYのサイトにないものかと見に行ってみたら 見たことのないトレーラーしかなかったので古い話かもしれません。(しかも見れなかった)
今 元自分の劇場をチェックしたら 設備のところからSDDSがはずされていましたので もう「ないもの」になっているかもしれませんね。

そういえばワーナーで新しく名取がオープンするそうで さすが新しい映画館は面白いものを導入するようですね。
http://www.warnermycal.com/event/natori/index.html
どこまで効果のあるシステムかわかりませんが ちょっと興味深深です。

投稿: けた | 2007年2月23日 (金) 09時15分

けたさん、こんにちは。
今まで多くのコメントを頂戴してきましたが今回がいちばんマニアックなコメントかもしれません(笑)。

そのSDDSトレーラーは初耳です。おそらくSDDS 8chを意識したMIXなのでしょうね。サウンドトレーラーはDOLBYやTHXも種類が増えて本当に賑やかになりました。

元勤務先からSDDSが消滅ですか…。いったいどちらなのでしょう!?気になりますね。

ここ数年のWMCは音響設計が飛躍的にレベルアップしています。とくに音響を謳っていない通常スクリーンでも高品質なのが印象的でした。WMSSも定評がありますよ。新規オープンサイトは1スクリーンのペースで導入されているようです。

久しぶりにSDDSサウンドを聴きたくなりました。

投稿: 管理人:月夜野 | 2007年2月23日 (金) 19時04分

月夜野さん、こんばんは。
自分のような映画館設備マニアについてとても的確に表現されていらっしゃいますね。特に音響が中心で映像マニアが少ないというのは同感です。かく言う自分も音響中心なのでこれからは映像にも目を向けるようにしたいと思います。

自分が映画館の設備にこだわるようになった頃(シネコン黎明期)には高品質劇場は数えるほどしかなかったので、近年オープンしているシネコンの平均水準の高さには本当に目を見張るものがあります。

「気分や作品に応じて映画館を使い分ける」というのはまさに自分(笑)
もちろん主に行くところは決まっているのですが、足を伸ばせる距離にいろんなサイトがあるので日帰り旅行気分で遠出するのは結構面白いです。
映画の内容と訪れた映画館の個性がうまく合わさって素晴らしい体験ができると「この映画を観にここまで来てよかった」と本当に嬉しくなります。

一般には「映画を見るために何もそこまで...」と思われるのかもしれませんけど(笑)

投稿: マモラ | 2007年2月23日 (金) 19時57分

マモラさん、こんにちは。

実際に映画館設備マニアの方が読むと「違う!」とお叱りを受けるかとヒヤヒヤしておりましたので、コメント嬉しいです。
映像マニアは少ないですね。むしろ映像のほうが良し悪しが分かりやすいような気もしますが、みなさん音響のほうがお好きなようです。

本当に近年の映画館は設備向上が著しく私はなかなかついていけません。今後はデジタル上映化に応じて映像と音響がフルデジタル設備へと変化していくでしょうから映写係もしっかりと勉強しないといけませんね。

映画館の使い分けは一般的価値観からすると奇異に映るでしょう。でもはまればこれは楽しいですね。同じ映画でも劇場によって印象は異なりますし…。単館作品はとくにそう感じます。ご近所にたくさん映画館があるようでその点は便利ですね!

投稿: 管理人:月夜野 | 2007年2月24日 (土) 23時41分

はじめまして、
名前がしめすとおりですが、私たちの話題のようですね、まさかこんなところで日の目を見ると思いませんでした。
確かに音響系のマニアさんは多いようですがピュアオーディオからでしたらJBLはちょっとと言われる方は厳しい状況です。近くのシネコンはほとんどJBL、TAD(パイオニア)が少々、BOSEは近くではないのでこれはゆう作品だけでしょうか。
ちなみにJBLはちょっと派です、JBLでドンパチは少々きついかな、最終的にはセリフはちゃんと聞こえて効果音は製作者の意図がしっかり伝わってくればいいのですが、一番難しいとこでしょうか。
究極ではヘッドホン用にエンコードした音響を自前のオープンエアー(外からの音が聞こえるタイプ)で多少のイコライジングをかけて聞ければ最高なのですがこんなことはむじかしいのかも。
映像系ではDLP(衛星配信)ができたとき満を持してゆきました、SWはDLPとフィルム両方見ています、最近ではアナログフィルムでやっていますよゆう映像が好きですしどうやって撮っているのかを推測するのが楽しみです。
個人的なマニア度としては、商売がらプレミアムシート以外で以下に映画の最後までのめりこめる椅子か楽に見える場所と暗さを探しています。
長くなりましたが今後ともいい情報をお願いします。
以前の記事になりますがバルト11「ゴールシアター」に何回かいっていますがほかとの区別がいまいちよくわかりません。

投稿: 迷画まにあ | 2007年2月25日 (日) 00時38分

迷画まにあさん、ご来訪ありがとうございます。
中国地方にご在住なのでしょうか?

映画館のスピーカーも最近は多種多様になってきましたね。TADなんてかなりマニアックだと思いますけど、選択肢の増加は歓迎したいです。

JBLは国内において映画館の標準的地位を確立していますね。音色に関しては好みがあるかと思います。個人的にはJBLの音に慣れ親しんでいるので特段に不満はないですよ(笑)。同じモデルでも劇場によってかなり音が違うので鳴らし方にも大きく影響されるのでしょうね。

家庭ではヘッドホンでの鑑賞は微細な音を拾える点でいいですね。映画館のように空間を音で満たすことはできないですが、完全に音の世界に没入できるような気がします。

『SW』は見比べられたのですね!さすがはマニアさんです。

劇場の暗さは品質と安全の兼ね合いで繊細な部分があります。かつてとは変わり、誘導灯が消灯できるだけでもかなりの進歩がありました。不特定多数の方が利用されるのでフットライトなどを消灯することは商業劇場では難しい問題です。

広島ではなく新宿バルト9についてですがJBLらしからぬ音で驚きました。JBL使用館で知る限り今までに聞いたことのあまりない傾向の音色に感じております。「ゴールドシアター」も詳細は関係者さんしか分からないのかもしれませんね。都内でも有数の大音量という点でも驚きましたけど(笑)。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: 管理人:月夜野 | 2007年2月25日 (日) 01時36分

こんばんは。

映画館マニア・映画館設備マニアですか。
おそらく私みたいな人を言うんでしょうね。

そんなに詳しく語れませんが…(^^;

他の方のコメントも含めて、楽しく読ませて頂きました。

コメントの中で、SDDS消滅のお話が出ていますが、もしかしたら『UC岸和田SC3&SC7』の事かも知れません。

サイト上にある劇場スペック表から確かに消えており、以前私も?と思った事がありました。

投稿: ひろろ | 2007年3月10日 (土) 02時48分

ひろろさん、こんにちは。

SRとSRDの表示違いに気づくあたり、まさに映画館設備マニアの鑑かと(笑)。

UCのHPからSDDSが消えていますね。どうしたことでしょう。岸和田はSDDS2館にTHX1館とdts不採用のUCとしてはマニア的に通いがいのある劇場と思っていたので意外です。

泉州地域は最古参のWMC東岸和田くらいしか以前シネコンはなかったと思いますけど、UC岸和田のあとは河内和泉のTOHO泉北やMOVIX堺、WMCりんくう泉南と賑やかになりました。泉大津あたりにもう1サイトあってもいいかなって思います(笑)。

投稿: 管理人:月夜野 | 2007年3月12日 (月) 11時21分

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