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2007年10月 2日 (火)

File.99 応答セヨ!

1993年の日本初登場以来、今やすっかりと定着したシネマコンプレックスの映画館(参照 File.11 黒船~シネコンの出航)。CINEMA COMPLEX(複合型映画館)は名称通り、複数の映画館(スクリーン)を使って多数の作品を同時平行で上映しているので、スタッフはタイムスケジュールに応じてそれぞれ持ち場の業務にあたります。作品の開始/終了時刻の連絡や場内清掃の状況のほかロビーの混雑具合などは逐一情報を共有し、全セクションが把握しなければシネコンの運営は成り立ちません。

シネコンセクションの概要は過去記事のFile.72 セクション配置File.73 セクション選びをご参照ください。
本日はセクション間の無線連絡についてご紹介します。

各セクションの相互連絡は無線機を使って情報の伝達・共有を行います。無線機というと仰々しいですが要はトランシーバー、ハンディサイズの携帯型無線機です。もちろん免許不要で誰でもすぐに使うことのできる簡易なモデルが用いられており、映画館ではモトローラ社とアイコム社の製品をよく見かけます。

映写は映写室という限られた空間にいるので、無線機に内蔵されたスピーカーで音声を聴取しますが、常に接客状態にある他セクションはイヤホンを使用します。映写スタッフもロビーに出るなど映写室外ではイヤホンを使用します。

混雑時はどのセクションも持ち場の対処で精一杯になるために、無線機を使って随時他のセクションと連携を取り合わないと現場は混乱をきたします。そこで主に映写とフロアのスタッフが連絡を取り合い入退場時間を制御して、チケット売場やコンセッションがそれに付随して全体の動きを作っていきます。入退場の時間が読めれば、他のセクションも具体的に動くことができるのです。

やりとりで多いのは「上映開始/終了時刻」の報告、「映写の上映準備完了とフロアの清掃完了」の合図でしょうか。これに加えてイレギュラーの事態や混雑のときは他セクション同士の応援要請もよくありますね(参照 File.93 人海戦術)。例外として通常の業務連絡以外の通信、たとえば機密に関わることや金銭関連の内容には無線機は使用せず、口頭でやりとりします。

実際にどのようなやりとりがあるのか一例を見てみましょう。


・オープン時のやりとり

マネージャー:まもなくオープンします。各セクション準備は良いですか?

全セクション:開店準備完了です

マネージャー:オープンします!

オープン直前に全セクションに対して準備が完了しているかの最終確認が行われます。このとき全てのセクションがいつでもお客様をお迎えできる状態でなければなりません。具体的に言うとボックスはチケットが販売できる、コンセッションは飲食物をすぐに提供ができる、フロアはロビーの整備をして入場ができる、映写は上映準備ができている状態を指します。


・上映開始前

映写:『めがね』まもなく予告編上映開始です

フロア:了解

映写:『めがね』まもなく本編開始です

フロア:了解、ボックスの方はお客様へのご案内をお願いします

ボックス:『めがね』本編直前了解です

映写:『めがね』本編に入りました

フロア・ボックス:『めがね』本編、了解です。本編確認します

フロア:3番スクリーン本編確認完了、異常なし

映写:映写了解しました

上映開始時刻が近づくと、映写は予告編上映開始を伝達します。映写以外のセクションには上映が始まっているかどうかは分からないので大切な連絡といえるでしょう。予告編が始まっていることをボックスが認識していれば、後から来たお客様にもその旨を伝達することができて好ましいです。

本編が近づいたらロビーのお客様に本編間近であることをお伝えする必要があるので再度連絡します。この連絡が入ったらボックスではもうすぐ本編開始であることを来場者に案内したうえでチケットを販売します。
本編上映開始後はフロアまたは映写のスタッフが場内に入って正常な映写がなされているかをチェックします。怠ると、もしもミスがあった際には後手対応になるので必ず行います。


・上映終了

映写:『めがね』まもなくエンドロール開始です

フロア:了解です。3番スクリーンのごみ受けスタンバイOK

映写:『めがね』上映終了です

フロア:『めがね』終了了解です

上映終了時間が近づいてきました。エンドロールに入る手前で映写はその旨をフロアに伝達します。フロアスタッフはこの合図を目安にして劇場扉を開け、ゴミ受け台を用意してお客様の退出を待ちます(参照 File.40 圧縮回収)。この連絡がないとフロアスタッフのスタンバイが出遅れる可能性があるため、必ずエンドロール前に伝達します。お客様が退出し始めてからでは遅いのです。


・入場開始

フロア:3番スクリーン清掃に入ります

映写:了解です

フロア:3番スクリーン清掃完了です

映写:了解。3番スクリーン『ミス・ポター』セット完了です

フロア:了解。13:40から上映の『ミス・ポター』開場します

ポディアム:開場開始アナウンスします。

基本的にお客様が場内にいらっしゃる間は清掃作業は行いません。お客様が退出し終わったのを確認した後、場内の清掃作業を開始します。映写もしくはフロアスタッフが作業灯を点灯させて場内を明るくした状態で清掃を行います。

この間に映写は次に上映する作品の準備を行います。シネコンで主流のノンリワインド1台映写機は上映回ごとに作品を映写機にセットし、リワインド2台映写機なら再セットは不要です。作品が変わるときはどちらのタイプの映写機もプリントのセットや上映設定を変更します。

映写準備と清掃が完了すればポディアム(フロアリーダー)に開場準備完了を伝達して、館内アナウンスで入場開始をお客様にお知らせします。

ステータスパネルがフロアやコンセッションに装備されている劇場であれば、無線連絡が遺漏しても各セクションのスタッフが映写状況を把握することができるのですが、映写スタッフ以外でパネルの見方を熟知しているスタッフはあまりいないようなので役立っているとは言い難い設備かもしれません。


シネコンはこのようなサイクルを繰り返しながら各セクションが連動して運営を行っています。フロアや映写の全スタッフは無線機を携帯していますが、ボックスやコンセッションはセクションリーダーのみが携帯していることが多いようです。上記のやり取り例ではコンセッションは登場しませんが、上映終了の伝達は次回入場開始の前段階を意味するので、調理量や物品補充をするタイミングとして活用されます。

一方で支配人を中心としてマネージャー等の管理職はこれらのやりとりを把握して、随時アドバイスや指示を出してスムーズな運営ができるように導きます。混雑を察知すればすぐにロビーフロアに出て社員自らが先頭に立つことも珍しくありません。ほとんどは現場のリーダーを中心としたスタッフの裁量に任されていますが、混雑時は事務所からの指示と現場での監督を織り交ぜることで現場を効率的に管理していきます。

単純に見えるこの無線連絡。しかしシネコンは単館に比較して上映回数がとても多いので無線連絡も実際は複雑に入り組みます。

たとえば10スクリーンのシネコンがあって1スクリーンで5回の上映があれば一日に全50回の上映がある計算になり、上記のような無線連絡が時間差で50回に渡って入り乱れるわけです。当然、業務連絡や問い合わせ、呼び出しなどのイレギュラーな通信も入ってくるので勤務に慣れないうちは次々と押し寄せるお客様や入れ替わる作品の動きについていけなくなると思います。

長々とやりとりをしていれば、重要な通信が遮断されてしまうこともあるので手短に用件を伝えることがポイントですね。また、上記例に見られるように言い手と聞き手が作品名を復唱するのは、勘違いや混乱を防ぐために行います。同時に複数の作品がスタートするときは聞き間違いを防ぐ点で重要な意味を持ちます。

常時イヤホンで無線通信を聞きながら接客を行うのは慣れないと難しいもの。
想像してみてください。
「本日はご来場いただきましてまことに…」とアナウンスをしている最中に無線で「7番スクリーンで携帯電話の落し物がありました。『HERO』16:20の回でau、色は白、メーカーは~」と飛び込んできたら!?もちろんアナウンスしながら無線も聞き取るようにするべきなのですが、これは結構難しいです。
コンセッションなら「ポップコーンセットのコーラとハーゲンダッツのバニラを2つ。ポップコーンはバターかけてトレーもください」とお客様からオーダーを取っているときに無線
「コンセの方へ、2番と5番のレジは金額を確認してクローズしてください。あと倉庫にパンが10ケース届いているので5階の冷蔵庫に入れて納品書を事務所に持ってきてください」などときたら…?お客様にオーダーを聞き返すわけにもいきませんから、このときは接客優先が望ましいです。慣れてくると両方同時に聞き取れるようになります。

接客をしながら無線機を自由自在に使いこなすのは最初は難しいですが、慣れれば心強いパートナーになり、いつしか無線機を持たずに現場に入ると不安を覚えるようになります。無線機を常時持っているフロアスタッフがコンセッションに異動した際は無線機を持たないことに違和感を感じることがあるようです。

時間が来れば入場が開始されて、定刻に上映がスタートする。終了すればスタッフが出口でごみを回収…。映画館で当たり前のように行われている作業のその裏には、セクション同士の緊密な連係プレーが存在しているのです。

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コメント

月夜野さん こんにちは。
同じ映画館勤務でも、単館と多スクリーンのハコでは、忙しさがかなり違うんですねぇ。
スクリーンが10コもあると、時間を間違えて映画をスタートさせてしまうのでは…、
と要らぬ心配をしたりもしますが、
なるほど、そんな風に細かく各部署で確認作業をしているのですね。
興味深く拝見させていただきました。

投稿: 世田wil | 2007年10月 3日 (水) 09時52分

 利用している側はあまり考えませんが、スタッフの方々はいろんな苦労をされているんですね。頭が下がります。

 以前、チケットを買おうとしたとき、スタッフの人に「少々お待ちください」と言われた後、小型マイクに向かって「春の雪、32名です」と報告していました。人数を確認していたんだろうなぁ、と思います。

 あと、MPTEの会員証を見せたとき、それが何かわからなくて、無線で連絡を取る姿をたまに見ます。これがけっこう、待たされたりするときがあって、急いでいるときは焦ります(汗)

投稿: むぎわら帽子のジミー | 2007年10月 3日 (水) 21時34分

前回コメントしたぽけぽけです。

僕も、働いている劇場でよく無線を使っています。
同じ時間帯に何本も上映するシネコンでは、無線は本当に重宝しますね。
(ボックスの場合は、主に入場開始を把握したり、お客さんの入っていない作品の上映を中止する報告を行うときに使います。上映開始の無線も重要ですね。)

ただ、広い劇場内だと無線の通信具合があまりよくない場合があるので(とくにボックスにいると、映写や、劇場にいるフロアスタッフからの無線が途切れ途切れになることがしばしば・・・)

だから、劇場全体に流す情報や、あまり情報量が少ないものを無線で流し、特定のセクションにだけ流す情報(たとえば、フロアのスタッフに落し物が届いているか確認をとる場合など)や、絶対聞き逃してほしくない情報を流すときは、内線を使うこともよくあります。

そのあたりはスタッフの臨機応変な対応にかかっていますね。

(ちなみに、ボックススタッフは、接客に集中していることが多いので、無線を聞き流していることが結構あります(汗)

最近は上映中止の無線が多くて悲しいです
(泣)

投稿: ぽけぽけ | 2007年10月 4日 (木) 01時28分

世田wilさん、こんにちは。
スクリーンが3つくらいなら混乱することもないですが6スクリーン以上のシネコンだとちょっとしたスタートミスが事故になります。タイマー始動なら自動スタートできますがスタッフが立ち会えないとこれまた事故のもとで^^;確認作業は映写の基本ですね。


むぎわら帽子のジミーさん、こんにちは。
人数確認はその時にもよりますけど不正入場の発見のために行っていることがあります。半券をチェックして入場者数と整合させます。
MPTE会員証は意外と保有者が少ないみたいで、あまり見かけないのかもしれませんね。全国視野で考えると割引対象館も限られていますしね。会員証は普通会員と準会員では少し違うんですよ。


ぽけぽけさん、こんにちは。
興行事業者の方だったとは驚きました。
無線も機種や建物の構造によっては感度が下がりますね。携帯電話の電波が届きにくいような建物だと無線機も苦手な傾向があるような気がします。
無線・内線・口頭、それぞれ使い分けることで限られた回線を有効に利用できます。イベントのときなどは多チャンネルで対応したりすると好都合ですね。

投稿: 管理人:月夜野 | 2007年10月 5日 (金) 06時45分

ご無沙汰しております。
半年近く見ていなくて申し訳ないような、
最新は劇場内の通信ですね、多分特定省電力と思っていましたがやはりそうでしたかテナントで入っている場合は他のテナントとの関係で混信対策などが大変なのではないかと思っていました。
今回のコメントは仕事関係の情報誌でシネコンの記事がありましたので紹介させていただきます。
内容は日立の「はいたっく2007年9月号」とゆうIT関係の情報誌に名古屋の都市型シネコンのシステムについて記事があります、当然ですが機械は日立、システムは都築電気のシネマシステムです。TOHOシネマズもこのシステムのカスタム版を使っています。
「はいたっく」または「CinemaSystem 都築電気」で検索していただけると「はいたっく」2007年9月号のPDFの8Pあたりにありました。
システムについて解説してしまうと長くなりますので参考までに
それでは

投稿: 迷画まにあ | 2007年10月13日 (土) 14時49分

迷画まにあさん、こんにちは。
通信に関しては傍受が容易なので、本文にもあるように守秘事項は原則的にやりとりをしません。もっとも、映画館以外で無線を使う店舗は大型SCではあまりないので混信対策は問題ないですね。

『はいたっく』拝見いたしました。映画館の発券システムはご存知の通り複数の企業からパッケージシステムとして提供されています。チケット券面を見ればだいたい判別がつきますね。
副支配人の弁「現場のスタッフがシステムの存在を意識することなく、効率的に業務が行える環境を実現したいと考えました」というのは素晴らしいですね。企業としてではなく使い手(現場)のオペレーションを考慮しているのは業務効率・サービス強化にとっても重要だと思います。

投稿: 管理人:月夜野 | 2007年10月13日 (土) 20時11分

いやあ、為に成ります。ありがとうございます。私も映写技師に憧れ映画館に通いつめた事がありました。やっぱり映画はフィルムに尽きます。スクリーンで観てこそ映画ですね!苦労の程がよく判り勉強になります。

投稿: 映画大好き! | 2009年1月25日 (日) 18時09分

映画大好き!さん、ご来訪ありがとうございます。
多忙のため長期間執筆がストップしておりますが、コメントやメールなどは随時チェックして返答させていただいております。今後ともよろしくお願いいたします。

映画はフィルムに尽きると言っていただけると嬉しいですね。デジタル映写もやってますがフィルムの持つ味わい、色味の正確性は流石と思わされます。

またのご来訪をお待ちしております。

投稿: 管理人:月夜野 | 2009年1月26日 (月) 02時19分

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