« File.100 100回目のごあいさつ | トップページ | File.102 予告と音響 »

2007年11月 9日 (金)

File.101 映画は一期一会

映写のお仕事は、観客に映画をよりよい状態で提供すること。今までにも何度か書いきたように映写業務の基本理念です。
実現するには映写技術の習得や経験が不可欠です。現在は多くの映写機がオートマチック化されて映写技師にかかる負担は少なくなり、不燃性フィルムの開発で火災の危険性も激減して誰でも少しの研修を行えば映写ができるまで簡便化されました。
以前は手作業で行っていたことが自動化されたことで映写技師にかかる負担は減り、ひいてはシネコンのような大型の複合型映画館を少人数のスタッフで運営することを可能としました。

業務内容が簡便化されたとはいえ、映写のお仕事には今も専門的な知識や手先の作業が生きていることも事実です。現在劇場公開されている映画のほとんどは35mmフィルムを使用した上映で、これは数十年来変わることなく続いています。フィルムを使用しないデジタル映写やビデオ上映も徐々に増えてはいるものの、映画の上映で35mmフィルムが圧倒的なシェアを誇っているのはデジタル化が著しい写真界とは対照的ですね。

ご存知の通りフィルムはとてもデリケートなもの、これは映画のフィルムも同じで映画上映プリントを扱う際には細心の注意が必要です。ちょっとしたダメージでも取り返しのつかない結果になりかねません。
いくら映写が自動化されたとはいえ、デリケートなフィルムやデジタル映写機のコンピュータを扱うのに神経を使うことは今も昔も変わることはないのです。映写は映写機という精密機器と、扱いに注意が必要な映画フィルムとの関わり合いで成り立っており、
時代は移り変わっても映写担当に常に緊張を強いる仕事です。

映写の仕事に慣れるまでは緊張とプレッシャーが重くのしかかり、上映を開始するのがやっと…という状態が続きます。無事に上映が終わるとようやく緊張から解放されて思わずほっとします(参照 File.96 はじめての映写)。経験を重ねるにつれて最初のような過度な緊張はほぐれ、自分のやり方やペースで仕事をできるようになってくれば一人立ちといえるでしょう。

こう書いていると映写はとても難しくて面倒な仕事なんだなとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、実は映画を最初から終わりまで正常に映写すること自体は難しいことではなく、一人立ちした映写技師であれば全能力の10%もあれば問題なくできます。現に今は多くの映画館で短時間の研修だけできちんと業務を遂行されている方が大勢いらっしゃいます。

能力の残り90%は経験とプロ意識がモノを言う世界。品質の向上をはじめ、映写中の異常発見やトラブルの事前回避といった危機管理意識と、それに対処する能力と判断力の育成のほうが、ただ映写をするよりもはるかに難しいのです。
映写中の異常を発見するには、正常時とのわずかな違いでも見逃さない注意力が求められます。上映機器の挙動や映像や音響の五感でのチェック、スクリーンの隅々まで目視で確認するといった研修だけでは身につかない、感覚的な判断力と経験を必要とする領域です。これは
普段から真剣に映写業務に向き合い、冒頭にも挙げたよりよい映写を心がけていないと身につくことはありません。

どれだけ入念に作業をしても完全に映写事故を防ぐことはできませんが、未然に事故を防ぎ品質を向上させることが映写技師の腕の見せ所でもあり役割なのです。これを放棄すれば映写技師の存在は不要になることでしょう。

そして忘れてはならないことは、お客様は映画を楽しみにして映画館まで足を運ぶということです。テレビ放映やレンタルビデオ店ではなくわざわざ映画館にやってくるのは、それだけの理由があるはずです。映画館だからこそのものが…。
その期待に応える、応えたいと思うことが映写技師にとっては大切なことなのではないかと管理人は考えています。

「映画を楽しみに映画館に行く」
この動機を映写技師はいつも心に留めておければ良いと思います。映画『ニュー・シネマ・パラダイス』で映写技師アルフレードの台詞に

「しかたなく同じ映画を100回も見る。休みは聖なる金曜日しかない、いつも独りぼっちで辛い仕事だ。」というのがあります。

非常に的を得ていてドキッとさせられます。確かに映写技師にしてみれば同じ映画を毎日かける繰り返しなのですが、それを鑑賞するお客様は毎回違う人たち。みなさん映画を楽しみに心待ちにしてやってきています。
映写技師が100回見ている映画でも(実際には見ている暇はありませんが)、お客様にとっては
一度きりしかない作品とのファースト・コンタクト、言ってみれば映画との一期一会。その出会いの時間を心ゆくまで楽しんでほしいから、もっと良い品質で見て頂きたいと努力するから映写技師の仕事は楽しいのです。

アルフレードはこう続けます。
「客席が満席になってお客が楽しんでいると自分も楽しくなる。人が笑うのが嬉しい。自分が笑わせている気がする」
この台詞には共感を覚えます。映写冥利につきる感情を的確に表現した名台詞ではないでしょうか。映写の仕事が好きでなければ言えない台詞なのかもしれません。お客様を楽しませたいからこそ映写の仕事には力が入るしそれだけに責任も重いのですが、アルフレードが言ったように人を幸せにするのが映写の仕事であるならば、本当に映写が好きな人にこの仕事を続けてほしいと願います。実際に好きだから映写をやっている人が多いですしね。それでなおお客様を楽しませたいという理由で向上心を持って映写ができる人には天職と言えるでしょう。

毎回同じ映画を上映しても、映写窓の先にいる人たちはその映画との一期一会の出会いを楽しみにしている。その人たちが映画館にいる時間を満喫し、映画を楽しんでくれることが映写技師の喜びなんですね。
観客と映画の一期一会を提供する映写技師の仕事、今後も映写の裏側を少しづつご紹介していけたらと思います。ちなみに現代の映写技師は聖なる金曜日ももちろん働いていますよ!

|

« File.100 100回目のごあいさつ | トップページ | File.102 予告と音響 »

映写のお仕事」カテゴリの記事

映画・テレビ」カテゴリの記事

映画館のお仕事」カテゴリの記事

映画館のお話」カテゴリの記事

コメント

「映画は一期一会」というのは本当にそう思います。
自分の場合、映画は映画館で見る一度きりということが多いです。プロジェクターとAVアンプでホームシアターもやっていますが自宅で映画を見たいとはまったく思いません。見逃した映画のDVDが発売されても欲しいとは思いませんがリバイバル上映があると見に行きたくなってしまいます(苦笑)
それくらい自分にとって映画と映画館は切り離せない間柄なので映画館の上映品質はかなり気にしています。できるだけ作品をより良い状態で見られるよう映写の方には頑張っていただきたいですね。

投稿: マモラ | 2007年11月 9日 (金) 22時37分

マモラさんこんにちは。

映画館とホームシアターで映画を見るのとでは同じ作品でもずいぶんと違う行為のように思います。映画館の大きなスクリーンで映画に集中・没頭するのと家庭で鑑賞するのは心理的にも違いがあるかもしれませんね。
上映品質は小さなことの積み重ねで向上していき、放置していれば悪化していくばかりです。映画館と作品の魅力を引き出すためにも向上・研鑽は必須ですね。

投稿: 管理人:月夜野 | 2007年11月10日 (土) 13時13分

久しぶりに、コメントさせてもらいます。
僕も、「映画は一期一会」という意見は的をえているな、と思います。
ボックスの視点から見ても、お客様はこの映画を楽しみに映画館にやってきているのだな、というのを感じますし、実際にお客様から「この映画、面白かったよ」といわれることも多く、そういうのを聞くと、とてもうれしくなります。
何回も同じ映画を上映していて、つい忘れがちになるけれど、この考えはとても大切だな、と思わされました。

投稿: ぽけぽけ | 2007年11月10日 (土) 22時33分

しばらく間が空いたので 100回終わったので気が抜けたのかしらと思っていました。お久しぶりです。

聖なる金曜日、特にカップルの多い日ですね。満員のお客さんの劇場とたった1人のお客さんの劇場 私たちにとっては数を重視しがちですが お客さんにとってはもちろんたった1回の映画のめぐり合いですね。
それとは逆に 大好きでいい映画だと思うのにお客さん0。もう入ってこないだろうという判断でフィルムは流すもののキセノンは落としてしまう状態 それも切ないです。
どうせ流すなら誰かに見て欲しい、そう思っていました(笑 懐かしいです。

投稿: けた | 2007年11月13日 (火) 03時37分

返答が遅くなり申し訳ございません。

ぽけぽけさん、こんにちは。
毎日が同じ作業の繰り返しのようでも、来場されるお客様はみなさん違う方ということを忘れないようにしたいですね。自分自身が映画は一期一会で映画館は映画との出会いの場だと捉えているのでこのような記事を書きましたが、共感していただけたら嬉しいです。

けたさん、こんにちは。
気が抜けたわけではなく、更新する時間がありませんでした…。しばらくは同じ状況が続きそうです。どちら様かのように「よっぱ」になる暇もないです^^;
上映中断は悲しいですね。ノンリだと一度スタートさせるとENDまで回さないといけないので、ただプリントが空回りしているのは寂しい光景です。せっかくだから1人でも多くの人に見ていただきたいと思うのは人情です。

投稿: 管理人:月夜野 | 2007年11月15日 (木) 20時00分

月夜野さん こんばんは。

自分のブログに書きましたが以前、今はなき品川のアイマックスで、たった1人で鑑賞したことがありましたっけ。
「あれ?誰も入ってこないけど1人でも上映してくれるのかな?」(笑)とちょっと不安になりましたが、たった1人のために上映していただき、場内アナウンスもしていただき、ドアをあけていただき、最後はドアのところのスタッフの方とお話しました。
これも素敵な一期一会ですね。
今となってはなつかしい思い出です。

投稿: Angelita | 2007年11月16日 (金) 01時21分

Angelitaさん、こんにちは。

お一人様も満席も同じお客様には変わりありませんから、きちんと同一のサービスを提供したメルシャン品川IMAXシアターのオペレーションは映画館としてお手本になりますね。
貸切状態になると何だか申し訳なく感じてしまうのは自分だけでしょうか?入場者数が0名のときの対処もまた日を改めてご紹介しようと思います。

投稿: 管理人:月夜野 | 2007年11月17日 (土) 01時59分

私は中学生の時に三巻目から巻末迄、乳剤に達する傷がある映画を観た事があります。巻き戻し時に何か引っ掛かったんでしょうか?理由は解りませんが印象に強く残ってます。映写しながら技師は、どう思ってたのか今になると気になります。

投稿: 映画大好き | 2009年2月 7日 (土) 23時49分

映画大好きさんこんにちは。

キズは意図せず付いてしまったり、人為的なミスで発生したり…。深い傷は再生できないし、お客様にも制作者にも申し訳ないのでそういった事故がないように映写係は努めないといけません。ただ長い間映写をしていると多くの人が一度はそのような経験をしてしまいます。そうなってからでは遅いのですが、映画が生きものだと感じる瞬間ですね。

投稿: 管理人:月夜野 | 2009年2月 8日 (日) 02時31分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/30969/8765535

この記事へのトラックバック一覧です: File.101 映画は一期一会:

« File.100 100回目のごあいさつ | トップページ | File.102 予告と音響 »