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2008年5月 3日 (土)

File.109 WMC東岸和田メモリアル 5

連載記事「ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田メモリアル」の最終回です。日頃から「もっと映写のことを書け」とご要望を頂いているので今回は映写の観点から5番スクリーンの所感を記して締めくくろうと思います。

5番スクリーンはWMC海老名7番スクリーンと同時に国内で初めてライセンス供与されたTHX映画館の最古参です。座席数は476席、スクリーンサイズ6.4m×14.94mの堂々たる規模は開館から15年経た今も色褪せません。

オープン当時は「東に海老名、西に東岸和田あり」と呼ばれるほど抜群のブランド力を発揮し、劇場入口の発光型THXサインパネルからもその自信の程が窺えますね。
今でこそ国内のTHX認定館は50サイト101スクリーン(2008年4月現在)まで増加しましたが、認定館の新規開業が停滞している現在は再びTHXの希少価値が上がっているように思います。なお商用映画館の国内初認定は前述通りWMC海老名と東岸和田ですが、立川シネマシティも同時期に初認定を目指していました。

オープン時は世界最先端の設備を有した映画館としても知られました。それまで一流設備と評価されていた北野劇場(大阪市北区 1980年開業)や日本劇場(東京都千代田区 1984年開業)とは一線を画するTHXに準拠した音響設備構造を構築して、日本に新次元の映画音響をもたらした功績は計り知れません。


5番THXスクリーンを観察


映像品質を低下させるスクリーンへの反射光を低減するために場内のカラーリングはモノトーンでまとめられています。この頃は側壁が白色の映画館も多くありました。
壁面はグラスウールで加工されTHXの残響規定をクリアする設計となっています。スピーカーも壁面に埋め込まず直接取り付けて音声品質の低下を防いでいます。



22基のサラウンドスピーカーが客席をくまなく取り巻いています。サラウンドスピーカーのセッティングはTHXの指定で決定され小型のスピーカーで客席全体を包み込むように設置するのが定石です。このスピーカーは旧タイプのJBL8330で現在は販売されていません。日本各地の映画館で今も活躍しているので見覚えのある方も多いと思います。



WMC東岸和田のスクリーンサイズになると縦幅が6mを超えます。客席の配置が緩いスロープ構造だと前の人の頭がスクリーンに被さるので画面の設置位置を高くする必要があります。この方法は画面を見上げる角度が急になってしまうデメリットがあります。
この劇場ではスタジアム形式で客席の段差を大きくし、多くの座席でスクリーンを見上げることなく見やすい視野環境を提供しています。サイドブロックの座席が内側方向に設置されているのも工夫のひとつ。おかげで画面と客席に一体感が生まれます。またスクリーンと客席の位置を揃えることにより音響の品質向上にも一役買っています。



連載の4回目にも書いたことですが、当時の常識からすると大都市の大劇場ではない収容人員500名を下回る劇場で横幅15m級のスクリーンは非常に大きなサイズでした。日本劇場(1008席)9m×18m、新宿プラザ劇場(東京都新宿区 1044席)7.5×18.1mなどの国内最大級の劇場と比べてみれば客席数に対する画面スケールは明らかです。
全デジタル音響方式を装備した点も革新的でした。画像のように幕間にはdtsのロゴが映し出されていました。



映画の音声がモノラルやステレオ主流の頃は音を壁で反射させて擬似的な音響立体感や響きを創生する手法が多用されました。デジタル音響が主流となりつつある現在は緻密なサウンドデザインを明確に再現するために場内の残響を極力抑える設計が主流です。WMC東岸和田は8スクリーン全てに吸音構造を採用。アナログ音響からデジタル音響まで効果的に再生できるように設計されています。
なかでも残響特性はTHX規格で特に基準が厳しく決められている項目で、各周波数帯域ごとに最大値と最低値が定められています。この規格内に残響時間を収めたのは海老名と東岸和田が国内の映画館で最初です。古い映画館では残響時間が2秒以上というクラシック音楽ホール並のところもあり、映画再生にとってこのような過度な残響があると台詞が聞き取りづらくなったりエコーがかかったりして音の情報量が著しく低下します。



映写室の下に空間がある一風変わった構造になっています。本来ならば「映写室が張り出している」と形容できるところですが、張り出し部の下に座席がないのですっきりとして見た目も良いですね。これでもかと設置されたサラウンドスピーカーが大迫力です。
リア壁面はかまぼこ状の音響調整素材が並べられフロントからの音声を効果的に吸収すると共に、リアサラウンドの音の定位を拡散させる構造になっているようです。
後部壁面の形状や吸音性・音反射性は箱全体の音響特性に影響を与える重要な部分です。THXは明瞭な台詞再生を重視して劇場後部の音反射を抑制し、スクリーンへの反響を起こさない劇場設計を推奨しています。この設計思想はTHXの認定を受けていない多くの映画館でも支持されています。スクリーン裏のメインスピーカーと相対する場所だけに気を遣うところですね。




鑑賞の感想


この日は5番THXスクリーンで『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』を鑑賞しました。音響方式はドルビー・デジタル(SRD)です。上映に先立って劇場マネージャーの方によるスクリーン前でのご挨拶がありました。15年間の感謝の意がこもった挨拶に思わず拍手…。場内の他のお客様も拍手をされ、ほのぼのとした雰囲気での上映開始となりました。

閉館する映画館なので予告編の上映は無し。ポリシー映像に続いてTHXトレーラー「TEX2 MOO CAN」とドルビー・デジタル・トレーラー「EGYPT」の上映。本来であればTHXトレーラーが後に上映されるはずで変則的な順序ですね。トレーラーは使い古されて変色し、音量も不足していましたが省略せずに上映していたことは大変嬉しく思いました。サウンドトレーラーは仕方がないとしても、THX認定の映画館はアドバンテージとなるTHXトレーラーは省略してほしくないと個人的に思います。

さて、音響マニアの間では総じて厳しい評価を受けることの多かった5番THX。以下は一個人の感想であることを前提でお読みいただけたら幸いです。


映写について


まず鑑賞時の映写能力については一級の品質を示していたことを書き記したいと思います。
連載で触れた通り5番スクリーンは映写室が高い位置にあるうえにカーブのついたスクリーンを使用している関係上、スクリーン全面にフォーカスを合わせるのが難しい造り。映写俯角がきついほどコサイン誤差と呼ばれるフォーカスのずれが生じ、画面に均一な焦点を合わせることができなくなるのです。これをどれだけ均一かつシャープに調節できるかが映写技師の腕の見せ所とも言えます。この大きな俯角でもTHXの基準に収まるのは意外に感じました。

映写機とスクリーンの水平ラインが正対すると左図のように適正な映写が可能。俯角が大きいほど右図のように台形状の歪曲が生じ画質の低下とフォーカスの不具合が発生する。この問題はスタジアム形式の映画館でよく見受けられる。

ちょっと小難しいお話しになってしまいましたが、要するにWMC東岸和田5番スクリーンは良好なフォーカスを出すのが少々難しい劇場なのです。

この点において隅々まで非常にシャープな像を結んでいた映写技術は素晴らしかったです。フィルム画像の粒子がきちんと分離して確認できました。そして使い込んでいる映写機のはずなのに画面の揺れも抑えられており高品質な映写で映画を楽しむことができました。欠点としては輝度が弱く画面が暗かったことでしょうか。暗さが作品の雰囲気にはマッチしていたもののもう少し上げるべきでしょうね。

映像は切れ味に優れボヤけた感じのないクッキリ目の再現。闇の再現が奥行き深く表現され、暗部に上品な艶やかさが感じられます。シャープネスと立体感が際立っているので映像に説得力がありました。総じてとても気合いの入った映写と見て取れ、輝度が暗い以外は気になることはありませんでした。もう少し明るい映写であれば解像感や階調もさらにはっきり分かったと思います。


音響について


音響は個性のある箱です。特筆すべきは台詞再生を主に担当するセンタースピーカーの音が生々しいこと…。いわゆる肉声感と言いますか人の声が生っぽく聞こえる個性が際立っています。フロントの音場はスクリーンの前に立体的に創生され、音楽や環境音を担当するL・Rスピーカーとセンタースピーカーが程よく分離独立して再生されているのは見事です。
そして緻密に配された22基ものサラウンドスピーカーとフロント音声が一体化して濃密なサラウンド音場を展開。

台詞再生で肉声感を強く感じる映画館は多くありません。5番スクリーンは息遣いまで感じ取れるような繊細な表現力を有しており、音響の派手な映画よりはミュージカル映画や重厚な人間ドラマの上映に適している印象を持ちました。またフロントの拡がり感やサラウンドの濃密な表現は海老名7番THXに共通した個性と言えそうです。

その一方で音の切れ味、解像感に鋭さはなくマイルドな味わいと言えます。フロントの残響は海老名よりも控えめですが聴感上での全体的な残響成分はTHXとしてはやや多めに感じられました。これはサイドに張り出した梁や劇場の形状に起因するのではないかと思います。
メインスピーカーとサラウンドスピーカーの一体感と音場の厚みは素晴らしく、リアの音響調整素材による拡散効果も感じられました。

メリハリがあって解像感ある音響や派手な重低音やサラウンド感を求める向きには多少不満が感じられる音かもしれません。管理人の印象では肉声感のリアリティは素晴らしいと思いましたし、一歩前に出てくるフロント音場の存在とサラウンドとの一体感は他ではあまり感じられない特徴で気に入りました。くせの少ない音でサラウンドの音源が柔らかく全体をカバーしているのもTHXらしいと思いました。響きが多少なりともあり箱の後部と上部で音がやや濁る点が惜しいですね。

映像と音響の品質を考えれば、はるばる訪れてこの劇場で鑑賞できて良かったと思いました。11年前にここで『コンタクト』を見たときの衝撃はまんざらでもなかったなあと実感することができ、建設から15年の歳月を経た最初のシネコンとすれば充分及第点と言える劇場です。


さようならWMC東岸和田


自分が映画館に関心を示すきっかけを与えてくれた映画館の閉館は寂しいですが、ロビーのメッセージ掲示やスタッフの閉館挨拶などフィナーレを締めくくるのに充分な記憶を自分の心のなかに留めることができました。今後はWMCりんくう泉南が後任となって業務を引き継いでくれることでしょう。WMC東岸和田で見た作品数は多くはありませんが、5番THX以外のスクリーンも思い出として大切にしまっておこうと思います。

15年間おつかれさまでした。
さようなら、ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田。

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コメント

月夜野さんはじめまして。

私はWMC東岸和田で7年間映写技師をしていました。閉館時にはいなかったのでが東岸和田で映写技師の仕事に携われたことは誇りに思います。

WMC岸和田メモリアルが今回で最終回ということで、元劇場関係者の立場としてお礼申し上げます。

投稿: やじろべえ | 2008年5月 4日 (日) 22時30分

やじろべえさん、ご来訪ありがとうございます。

WMC東岸和田メモリアルは今回で終了です。この劇場は私にとって映画館が好きになるきっかけを与えてくれた劇場なので閉館と聞き矢も盾もたまらず出かけました。久しぶりに訪れてみると改装された広いロビーがあって思わず嬉しくなりました。

日本の映画館で最初のTHX認定を受けた映画館であり、シネコンのパイオニアのWMC東岸和田の閉館はシネコンの一時代が終わったような印象を受けました。

劇場関係者様ということでいろいろ思うところもあるかと思います。素敵な映画体験をさせていただきありがとうございます。WMC東岸和田には本当に感謝です。

投稿: 管理人:月夜野 | 2008年5月 6日 (火) 03時58分

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