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2009年11月15日 (日)

File.113 試写流出

先日発行された業界紙で、映画館の業務テスト試写における「情報流出」についての記事が掲載されました。業務テスト試写については過去記事も合わせてご覧ください。

映画館では上映用プリントに不具合や問題がないかをチェックするために、作品の公開日に先立って映写スタッフの手でテスト試写を行います。テスト試写はプリントの品質チェックのほかに上映機材の動作チェック、編集作業(プリントを上映できる状態にする作業のこと)に問題がないかなどを念入りに確認するのが目的で、この業務は基本的に映写スタッフが行うことが前提ですが映画館によっては映写以外のスタッフにも参加を許しているところもあります。自館で映画を見ることも勉強のひとつであり、私自身もこれについては問題はないと考えています。

先述の記事にある「情報流出」というのは、このテスト試写で見た作品の内容をインターネットで公開している者がいて、劇場スタッフの特権だとなかば自慢するように書かれていると指摘しています。

個人的な結論は、テスト試写はあくまで品質管理のために行っている業務であり、作品の内容を他言することを推奨しているわけでは決してありません。よって公開前に職務上の権限でもって観賞した作品の内容を不特定多数に公表することは好ましいとは思いません。

テスト試写における作品内容流出の是非については賛否両論あると思います。自館の映画=商品を宣伝する行為であればOKと考える方もいらっしゃるかもしれません。一般試写会やプレス・映画評論家向けの試写会については宣伝することを目的に開催されるので、観賞者が内容に言及するのは問題ないでしょう。しかし映画館におけるテスト試写はあくまで「業務試写」であって、内容を見るのが目的ではないのです。すでに一般試写会が大々的に行われている作品ならばいざしらず試写会が行われていない作品でも同様な事例が起きていると記事には書かれています。それを特権と称して公表するのはモラル面で歓迎されることとは思えません。

映画が完成して映画館にプリントが納品されるまでに、数多くのスタッフや企業が関わっています。映画館はそのなかで最後に作品にタッチするところです。作品の規模や話題性にもよりますが、制作スタッフや関係者は作品の内容については公開前に外部には公表しないのが常識です。制作スタッフではない、たとえば洋画の字幕翻訳家や宣伝会社、映画現像所のスタッフであっても内容や作業内容について他言することはありません。彼らは映画館のスタッフとは比較にならないほど早い時期に作品を見ていますが、それは業務上で必要なためで他言する理由にはならないのです。話題作を担当するときは内容に関する一切の情報に関しての守秘義務が受託条件になる作品もあります。

もし公開前の作品内容が流出した場合は会社にとっての信用問題に直結します。映画制作スタッフや関連企業の契約は互いの信頼関係によって成り立っているところが大きく、ひとたび信頼を損なうと回復させるのは容易ではありません。作業中の作品の情報を第三者に漏らすことはたとえスタッフ個人の出来心であっても結果的に会社全体の信用力低下として打撃を与えます。映画界に限らず社会とはこのような信頼でつながっていることは言うまでもないことです。
映画館のアルバイトといえども映画業界に関わっており、数多くのスタッフが心血を注いできた作品をお客様にお届けする大切なお仕事です。業務試写で見た作品を特権と称して語ることに良い印象は持てません。

ひどい場合になるとテスト試写から映像や音声までもが流出した事例も過去にあります。違法行為であって許されることではありません。公開前の情報流出はこのような行動へエスカレートしていく原因になることも危惧されます。悪気がない行為でも信用低下はもちろんのこと権利者の権利を侵害する恐れがあることを念頭に置いて業務に当たる必要はあると思います。

近年は配給会社も劇場内での映画の撮影・録音を警戒して様々な手段を講じるようになりました。日本でも大ヒットしたハリウッドの某話題作は最後巻(映画のプリントはいくつかの巻に分かれている)だけ公開日間際に別納する方法が取られました。言うまでもなくテスト試写からの内容流出を懸念しての処置です。この場合はすべての編集を終えてからでないと正確な試写ができないためにある程度の抑止効果はある半面で、公開直前の編集や試写業務は映写スタッフへの負担を強います。一部の心ないスタッフの行いによって現場に負担がかかるのは決して望ましい状況とは言えませんし、本編前に盗撮抑止キャンペーンフィルムを上映しなければならないなどお客さまに対しても心苦しい結果を生み出しています。

そのためポジティブな内容であっても、テスト試写に参加したスタッフは業界関係者として未公開新作の中身に大々的に触れることは避けるべきだと考えます。本当に集中して品質チェックをしていると、内容まであまり気が回らないものです。テスト試写が本来あるべき役割を果たせるように、参加するスタッフも真剣に作品に向き合ってほしいと願います。

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コメント

はじめまして。
ページ更新を心待ちにしております。

“試写流出”はかなり問題になりましたが、
モラルの問題だと思います。
述べられてることはごもっともだと思うし、
映画を仕事としてる人間は最低限守るべき
事だと思います。
映写技師は映画の末端の・・・でも、一番
お客様に近い、幸せな映画スタッフだと勝手に思っております(^o^)
まぁ、そう思わないと、やってられい!!!
デジタル、3D作品も増える現状ですが、
まだまだ、人間は必要だと思います。

映写技師は、どうなると思いますか??


投稿: yaesakura | 2010年3月 2日 (火) 04時24分

yaesakuraさんいらっしゃいませ。
更新が滞っていて申し訳ありません。多忙が続いておりまして…。

映画館のスタッフは観客と接する最前線なので守秘義務や責任感はしっかりと持ってほしいと思います。特権などもってのほかです。

35mmがすぐに消えることはあり得ませんしいわゆる国家資格レベルの「映写技師」は少なくなっても35mmを扱う人間は今後も必要でしょうね。若いスタッフが多ければ卒業などでそのつど教育しないといけませんし。デジタルシネマの割合が圧倒する時代はまだ当分先です。それまでは必要ですしデジタルシネマ機器を深く扱える技師の養成は急務ですね。

投稿: 管理人:月夜野 | 2010年3月 2日 (火) 21時49分

勝手にお邪魔して
ぶしつけな質問だけして・・・。
失礼な奴ですみませんm(_ _)m

ご返答ありがとうございます。
35mm・デジタルどちらも触れられることに
感謝して、エキスパートになりたいですね。

お忙しいようですので、
体調には気をつけてくださいね☆

投稿: yaesakura | 2010年3月31日 (水) 06時36分

yaesakuraさん、いらっしゃいませ。

いえいえ、コメントを頂けてうれしいです。
写真でもそうですがアナログを理解するからこそデジタルも活きてくると思うのです。今のデジタルシネマも音響機器はやオートメーションはフィルム設備と連動しています。カメラのメーカーもいかにして「フィルムに追いつけるか」を目指しています。

私は35mm専門ですが、少しづつデジタルにも慣れて映写という仕事が過去の遺物にならないようにスキルを磨きたいと思います。

投稿: 管理人:月夜野 | 2010年4月 2日 (金) 02時02分

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