カテゴリー「映画館のお仕事」の記事

2010年6月18日 (金)

File.119 CINEMA・TWO音響調整レポート

2010年6月13日、CINEMA・TWO(東京都立川市)で行われた映画『THIS IS IT』の音響調整現場を見学してきました。その様子と、CINEMA・TWOの音響設備を簡単にレポートしようと思います。当作品のサウンドをより良くするために、シネマシティが企画した参加型イベントで、音響技術者の微細な音響調整をじかに聴くことができる貴重な機会でした。

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CINEMA・TWOの外観。ガラス張りの瀟洒な建築です。


1994年に東京都内で初めて劇場構造規格THXの認定を受け(CITY2)華々しくオープンした立川シネマシティ。特に音響へのこだわりは定評があり、そのシネマシティが独自のアプローチで2004年に造り上げた二つ目の映画館がこのCINEMA・TWOで、先般までメモリアル特集記事で紹介したシネマデプト友楽と同じく独立系デザイナーズシネコンです。ここは従来の映画館の音響構造とは全く性格が異なるオリジナルの音響システム「Kicリアルサウンド」を全5スクリーンに採用しています。

映画館の音響システムというのは世界的な基準でセオリーが決められていて、映画館が独自で音響効果を変えるということは通常は行いません。普通の映画館で変えるのは音量くらいです。CINEMA・TWOでは独自に開発された劇場構造とデジタルサウンドプロセッサーを駆使することにより、映画に合わせた調音が可能となっています。言いかえれば普通の映画館は固定された音響設定に則った上映になるのに対し(だからこそ最初の設計・性能や調整の良しあしが重要)、ここでは映画ごとに音質を調整できるシステムを用いて運用されているのです。

このようなスタイルの映画館は類例が少ないですね。通常の映画館でも物理的に行うことは可能ですが音響や映画の音に対して、造詣の深い人物がいないと逆に映画の魅力をスポイルしかねません。Kicリアルサウンドは有限会社エル・プロデュース代表取締役でありサウンド・スペース・コンポーザーの肩書きで知られる井出 祐昭氏と音響コンサルタントの増 旭氏によって開発されたからこそ実現したプロジェクトと言えるでしょう。KicのネーミングはCINEMA・TWOのアートディレクターを務めた海藤 春樹氏、井出氏、CINEMACITYの頭文字を取って名付けられています。

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右が増 旭氏、そのすぐ左が井出 祐昭氏です。




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海藤氏によってデザインされた幻想的な照明。まるで教会のキャンドルのようです。



Kicリアルサウンドって?



Kicが目指したのは映画の音を作るダビングスタジオと同等以上の環境を持つ映画館とすることです。そのために敢えて映画館の設計セオリーから離れた設計となっています。その自信の表れは各劇場の名称をa STUDIO、b STUDIOというようにスタジオと銘打っていることからもよく分かりますし、実際に映画の音を場内で作ることも可能なだけの建築音響を構築しています。

まず最新のシネコンなどと大きく異なる点は、場内環境をより生活環境に近い自然な音空間にしてあるある点です。シネコンなどでは映画に収録された音を反響させないように壁面や天井に吸音材を設置し、過多な残響を防いでいます。クラッシックホールが残響時間を長くとり豊かな響きを聴かせるのに対し、映画館では明瞭な台詞、音声を客席に届けるために強く吸音をしてあります。そのため場内に入ると耳が少しツーンとした感覚を覚えるはずです(参照File.60 場内音楽)
CINEMA・TWOでは吸音をできるだけ抑え、自然な聴感となるような音空間としています。そのほうが聴感上の居心地が良いですし、それで映画館が造れるならやってみようというチャレンジ精神があったものと推測されます。ただし、全く吸音しなければお風呂場のような反響だらけの聞き取りづらい音になってしまうので、音響シミュレーションを重ねて映画再生に適した環境になるように設計されています。

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写真のように壁面がわずかに斜めに立っています。そのかわりに通常の映画館のような吸音材を使用せず、天井に向けて音を反射させる構造を用いています。こうすることにより他の映画館に比べて圧倒的に吸音面積を減らすと同時に定在派(壁の平行面で向き合う音による波長の乱れ。音響に悪影響をもたらす)の問題も処理しています。反響がある分、シネマ用スピーカーよりもより音が遠くへ飛び微妙な音の調整も可能なMeyer Sound社のPA用パワードスピーカーを使用しています。これで反響に打ち勝ち、より繊細かつ力強い音が再生できるのです。Meyerのスピーカーは性能が非常に優れていますが高価で元来は映画用ではないため使用している映画館は国内では少数です。




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天井の拡大写真。吸音板がぎっしりと設置されています。通常の映画館はここに岩綿吸音板パネルを使います。映画館によっては薄手のグラスウールを用いているところも見受けられます。天井に音を集めて吸収しているのがミソですね。グラスウールでは高音域の吸収が強く低音域を残してしまう特性があり、中高音をきれいに出す音環境を作るのが難しく低音過多になりがちです。そのためスクリーンから離れるほど高音がこもりがちになりますが、CINEMA・TWOはセンタースピーカーを除くライトとレフトのスピーカーとサブウーファーをむきだしにしていることもあり後方まで高域減衰が少なく、観賞位置による音のバランスの崩れが少ない造りとなっています。ご存知のように通常の映画館はスクリーンの後ろ側の見えない位置にスピーカーが設置されています。

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傾いた壁、センタースピーカー以外がむきだしになっているのが分かりますね。


さて、今日はKicの解説はこのへんにしておいて音響調整現場の様子をご紹介しましょう。機会があればもう少し掘り下げてこの映画館の音響について記事を書いてみたいと思います。私が以前にCINEMA・TWOのオープン前に招待された「スニークプレビュー」の際の『リディック』の音響は衝撃的で、今までに聞いたことがないタイプの音響空間に圧倒されたものです。そのときのチューンは派手目にしてあったので通常上映とは違うデモンストレーションサウンドでしたが、今回の音響調整ではそれ以来の素晴らしい音とマイケルの魂が息づくサウンドを聴くことができました。



音響調整レポート



CINEMA・TWOにおける最初の『THIS IS IT』興行は2009年10月28日~。再上映が2009年12月19日~(再調整版で名付けてINVINCIBLE SOUND)そしてスタンディング上映。このときの上映も井出氏による調整が行われ各界から絶賛を浴びました。「THIS IS ITなら立川」という評判は瞬く間に広がり以前より映画館ファンの間でおなじみだった「音響の良さなら立川」の名を一般観客層まで知らしめたのです。以前のサウンドでも十分な音響を聴かせていただけに実に楽しみです。

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参加者の多くが女性!偶然にも友人が来ていてびっくりしました。仙台からいらっしゃった方も…。


本来は十数人の参加枠のはずが意外なほどの参加者。反響があったのでしょうね。
まず、井出氏による今回の調整の説明と、CINEMA・TWOの設計構造などについて簡便な解説がありました。井出氏によると
今回は「今まで以上にマイケルの声と愛のエネルギーを忠実に引き出す」とのこと。
これは楽しみです。もともとこの映画はそれほど音質が良いわけではなく、低音域が目立ち台詞が少し引っこんで聞こえるという映画音響的にはバランスの悪い難のある作品です。井出氏も「作品の音を元から直したいくらい」と仰っていましたが同感です。このような素材からいかにしてさらにマイケルのエネルギーを引き出すと言うのでしょう。どのような調整になるのか実に楽しみです。

解説の後は模範上映(冒頭約10分)。1回目は無調整版。2回目がインヴィンシブル・サウンドです。3回目がスタンディングバージョン(大音量)。2回目のほうが明らかに全体がフラットな音声となりノイズ感が低減、全体の各チャンネルのバランスも揃い、より聴きやすい音になっているのが分かります。また声の透明感とノイジーな帯域が抑えられよりシャープでクリアな肉声感ある音声に変化しています。まるでノイズリダクションをかけたうえで全体のバランスを理想的に合わせたような印象でした。上映をストップした後はフィルムを巻き返す時間が必要なのでその間は質疑応答時間となりました。


いよいよ調整開始


デモが終わった後、本格的に調整に入ります。今回はスタンディングライブスタイルで猛烈な音量での上映に向けての音響調整です。聴いていると1曲1曲ごとの平均値を出すような感じでわずかな調整が加わっていることが分かります。決して大きなイコライザー調整ではなく注意深く聴いて帯域が出たり引っ込んだりするのが分かる程度。その繰り返しが続きます。それは主に台詞を担当するセンタースピーカーだけではなくサラウンドスピーカーにも及んでいました。
でもやはり「声」を最重要視しているのは明白で、この声をどのように出すか腐心している様子が見受けられました。
聴いているうちに声が自然と聴こえるようになり、カドが取れてより自然な再生へと変化していきます。調整の間も我々レポーターは歌っても踊ってもOKという非常に自由な時間が与えられ、多くのファンがスタンディングで歌に合わせてノリにノっていましたね(笑)。井出氏もその様子を愉しまれていたようです。

行程としてはまず映画の前半部分で大まかな調整、休憩後の後半部分ではセンタースピーカーのみからの再生やサラウンド無し再生などでより深層部の調整をかけていきました。1回目の上映が終わった後は休憩後、作品を休みなしで上映し最終調整となりました。相当な大音量のなかで的確に音を拾って絶妙にバランスを取っていく様子はまさに「音作り」であり、計測数値上の調整ではなく井出氏ら技術者の聴感で仕上がっていく様は職人技と言えるものでした。



6時間に及ぶ調整の後


そして最終的に仕上がった音。言葉ではうまく表現できませんが凄まじい表現力であることは確かです。まずこの作品の特徴である押し出しの強い低音を出しながらも他のパートやヴォーカルを潰さない圧倒的な肉声感があって、スクリーンから飛び出してくるようなセンターチャンネル。まるで現場にいるような空気感のリアリティとマイケルの生っぽく艶のある美声が感動的です!
普通はただ音量だけを上げてしまうと高音域が目立ってくると同時に重低音域の主張が強くなってバランスが崩れ、他の音声成分をスポイルしてしまうものなのですが、調整によりこんなに多くの音が各チャンネルに割り振られていたのかと唸らされました。

パーカッションのパンチある音声も特筆です。特にこれは前のほうのシート、G列より前あたりで実感できるでしょう。弾けるパーカッションの鋭い音は胸の奥まで突き刺さるような再生です。そこにマイケルのヴォーカルと各パートの演奏が調和しているのだからたまりません。私は後方のM列(個人的に好きな観賞列)で聴いていましたがパーカッションのキレとベース音の量感あふれる再現はまさにコンサート会場にいるような臨場感です。

また今まで映画館では聞いたこともないほどの大音量のため身体の内側まで音が叩きこまれてきます。それにも関わらず場内全体を充満する重低音にビクともしない床や壁面の剛性の強さは、さすがはスタジオクオリティを標榜するだけの建築構造になっていることを再確認させてくれました。サラウンドもフロントスピーカーに使えるほどのパワーがあるモデルなのでしっかりと音が客席まで届いてきて、5.1chをフルに使って音を割り振った制作者の苦労がしのばれました(リハーサル音源なので雑ではありますが)。リアサラウンドにもギターの音、バックコーラスなどがしっかり入っているんですよね。大音量でもそれが確実に伝わってくる、凄いことです。

とにもかくにも激烈な音量ながらサラウンドも含めて各パートがしっかりと自己主張し、本当にロンドン公演に参加したかのようなリアリティあるサウンドで降参です(笑)。あれほどの大音量でありながらソースの情報量を超えるかのようなマイケルのはっきりと明確でパワフルな声の再生には驚きを隠せません。ちょっと私には音が大きすぎるかなという感じはありましたので観賞される方は大音量を覚悟の上で行かれることをお勧めします。元々のミックスではスクリーンより遠く聴こえ、いまひとつパワーのなかったマイケルのヴォーカルが、その場に本人がいるようなサウンドで体感できたことはまさに「リアルサウンド」の名に恥じぬものであったと思います。



その他所感



逆に気になったこともあえてここに。まず前半映写機にシャッター流れが見受けられた点です、普通のお客様ではまず気づかないレベルではありますが映写機のシャッターとフィルムの給装タイミングのズレにより映像がわずかに下方向に流れて映写されていました。ただこれは微細なもので大きな問題はないと思います。映写技師でもない限り気にならないでしょう。あとライブスタイル上映だから仕方ないのですがもう少しLFE(重低音)のレスポンスが下がったほうが個人的には好きですね。下げてあるのは分かるのですが本当の公演よりも重低音は強いのではないか?と感じるほどでした。それでもマイケルの声が演奏が胸に届いてくるのが今回の調整の素晴らしい点であると思います。

この映画を見た誰もが思う感想である「実際の公演を見てみたかった」。
それは永遠に叶いませんが、少なくともこの
CINEMA・TWOのライブスタイル上映は世界で最もその世界観を忠実に再現している上映環境の1つであると確信します。サウンドをくのではなく、“体験する映画”となって生まれ変わっています。爆音や重低音の映画再生が一部の映画ファンの間で支持されている昨今、CINEMA・TWOの今回のサウンドを聴いてしまうとこれまで爆音や重低音と言われていたものがいったい何だったのか…と思わずはいられません。

独創的な建築音響構造と音響設備はもちろんのこと、スタッフの熱意だけでなく井出氏と増氏のゴールデンコンビだけが生み出せる世界観と言えるでしょう。元々Kicはそのライブ感ある音場のため音楽映画、とくにロック映画などには相性が良い傾向があるだけにまさにピタっとはまったと思います。最初に見たとき自分が「音の悪い映画だな」と感じていた『THIS IS IT』にこれだけのエネルギーが込められていてそれを映画館で引き出した事実を思うと、THX(世界基準の映画館構造規格、パラメータの変更はできない)を支持している自分も「映画ごとの音響調整」というものに大変興味を持ちました。

井出氏と言えば個人的には場の空気や世界観を重視しつつ繊細で自然な音空間を生み出す印象がある方だけに、今回ほどの大音量(繰り返しになりますがそれほど凄いボリュームなのです。途中で大音量がさらに上がりましたから!)になったのは意外でした。劇場がビクともしない剛性なので音圧だけで身体が揺れ、鼓動が速まる未体験の音になっています。参加者の熱気や熱意に井出氏自身が突き動かされたのではないか、そういう印象を持ちました。参加者全員の一体感によって作り出された音と言って良いでしょう。最後は拍手喝さいで調整会は終了しました。井出氏の「マイケルはここに来ていると思う」という言葉が鮮烈に思い出されます。

CINEMA・TWOでの再々興行は6月19日より。名付けて「THE EXPERIENCE」。上記のライブスタイル上映の日程は以下。

2010年6月19日(土) 20:00~ 予約/窓口販売 6月17日(木)
2010年6月25日(金) 20:00~ 予約/窓口販売 6月22日(火)
2010年6月26日(土) 20:00~ 予約/窓口販売 6月24日(木)

「爆音はちょっと…」という向きの方は通常上映でも大変なクオリティです。ファンならずともぜひ足を運んでみてください。そして体感してください。志半ばで世を去ったマイケルが目指していたものが少なからず感じ取れると思います。マイケルがこの上映を見たらきっと“I LOVE YOU”と言うのではないでしょうか…。ここまでCINEMA・TWOが本気の音を出すことは滅多にないのでそういう意味でも貴重な体験でした。

そして劇場のスタッフが自分たちの劇場を誇りに思い、好きなことに一生懸命になっている姿に感銘を受けました。好きだからこそ、誇れるからこそこのような挑戦と音響調整レポートというチャンスを与えてくださったのだと思います。最後になりましたが今回このような機会を与えてくださったシネマシティのスタッフの皆様と関係各位に心から感謝の意を表します。ありがとうございます。

For the fans...

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File.118 シネマデプト友楽メモリアルVol.5

シネマデプト友楽メモリアルの最終回です。今日は最大劇場のCINEMA5の場内を見てみましょう。場内も独創性のある内装に仕上がっているんですよ。



File.118 シネマデプト友楽メモリアルVol.5



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90年代の映画館の趣を残しつつ、落ち着いた照明とカラーリングで統一された場内。縦長の形状をしているため後ろの席に座るとややスクリーンが小さく感じられるかもしれませんが、緩やかなスロープと絶妙なスクリーンの設置高のおかげでどの席からでも見やすさを確保しています。




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もう少しスクリーンに近づいてみました。キャパシティに対してサイズが小さいわけではありません。むしろ最近の映画館のスクリーンは大きすぎるきらいがあるのでこのくらいがちょうど良い大きさなのかもしれませんね。個人的には最後列中央から水平視野角30度もあれば十分だと考えていますが新しい映画館のスクリーンは40度近くになることもあり、設置位置も高くて後ろのほうに座らないと画面が見づらい映画館が増えているように思います。




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この劇場の特長は壁面のカーテンウォール。サラウンドスピーカーも見えないようにカーテンのなかに隠れています。このカーテンは素材や色彩にもこだわったそうで古都奈良らしさを、侘びさびを感じさせるものになっています。もちろん吸音効果も考慮されているうえ、光の反射率が低いので上映中も照り返しが少ないメリットがあります。このようなカーテン式の壁面の映画館は珍しいですね。見た目の印象も優しくて好ましいと思います。




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映写窓を見てしまうのが拙サイト管理人のクセ(笑)。メンテナンス照明のようなスポットライトが装備されています。映写窓の周囲にあたる高所は白っぽいカーテンがかけられていて休憩中は良いアクセントとなっています。映写設備の詳細は知らないのですがシネコンでは珍しいイタリア製の映写機が2台式で用いられているようすで、スピーカーはエレクトロボイス社製を使用しています。




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こうして側面から見ると壁がカーテンに覆われている様子がよく分かります。実際に見ると照明もシックで素敵なんですよ。今回撮影できなかったのですがCINEMA3の出入口付近に使われている金属製レースカーテンはとても美しく素敵でした。劇場ごとに微妙に個性が違うのもこの映画館の特徴です。




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こうして見ると劇場の雰囲気がよく分かりますね。カーテンと同じくシートも特注色が使われたハイバックシートです。座り心地が良く画面に対する背もたれの角度も適正なのが特筆すべきところです。音響面はどちらかといえばキレや重低音よりも柔らかさや耳当たりの良さが印象に残るサウンドです。『フラガール』と『ローマの休日』を見ましたがどちらもソフトに聴きやすく鳴っている印象でした。フロントの分離感もしっかりとしています。おそらくエレクトロボイスの2Wayスピーカーではないでしょうか。重低音やサラウンド感が注目されやすい昨今において珍しく落ち着いた音響と言えるでしょう。壁面よりも厚みのあるシートによる吸音割合が大きいようでした。




シネマデプト友楽が標榜していた「第一級のホスピタリティ」。その精神は現場のスタッフの様子や清潔感あふれる館内によく表れていました。自分としても、この映画館ほどお客様目線でスタッフが接客をしている映画館はあまり記憶にありません。1階のちらし・ポスター放出市でスタッフが来場者の子どもと親しげに接している様子を見たとき、無くなってしまうのが本当に不憫でなりませんでした。

1942年に開館し、68年もの長きにわたって奈良市に映画の明りを灯し続けてきたシネマデプト友楽。次々とオープンする郊外型大型シネコンの乱立により来場者が減少、社長の健康不良も重なりこのたび閉館することとなりました。営業部長の「本当に残念ですが先は見えている」との言葉に、一観客の私もそれを受け止めるしかありません。

またスタッフの方々の言葉も印象に残りました。「週刊文春で全国トップ10入りしたことで自分たちの映画館が評価されていることを知った」、「閉館するのは本当に寂しい」、「たとえ経営が変わっても友楽で働きたい」、「この大好きな映画館で働けたことはずっと思い出として忘れない」などスタッフ全員が閉館を惜しんでいるようでした。結局1月末で閉館し、スタッフも友楽を巣立って新たな生活を送っているそうです。

私は遠路のため友楽を頻繁に訪れることはできませんでしたが、週刊文春で推したのは間違いではなかったことを今回の最後の来訪で再確認することができました。一流ホテル並みの接客とシックな劇場デザインコンセプトは最後まで変わることなく、国内でも類例の少ないデザイナーズシネコンだけに閉館は寂しく思います。また同日、神戸市にあるMOVIX六甲も閉館しました。シネコンチェーンMOVIXの第一号サイトでこちらも集客に苦戦したうえでの閉館だったようです。

これからはシネコン同士の生き残りをかけた熾烈な戦いがさらに激しさを増していくことでしょう。シネマデプト友楽は閉館しましたがまたいつの日か復活する日を願っています。「まだここで働いていたい…」というスタッフの言葉が胸を締め付けます。
私は寂しさのあまり思うように撮影・取材が進まなかったのですが、閉館間際でお忙しいなか取材協力に快く応じてくださったスタッフの皆様に厚く御礼を申し上げます。

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68年間お疲れさまでした。
そしてありがとう。シネマデプト友楽。

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2010年6月16日 (水)

File.117 シネマデプト友楽メモリアルVol.4

シネマデプト友楽メモリアルの4回目は内装を見ていきたいと思います。高齢者に配慮したバリアフリー設計と、古都奈良をイメージした落ち着きのあるカラーデザインが印象的です。


シネマデプト友楽メモリアルVol.4



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CINEMA2の入口と売店ロビーの様子です。右手がエレベーターになっていてその正面がカウンターとなっています。シネコンにありがちな派手な色彩は使われておらず、非常に落ち着いた雰囲気を醸し出しています。階段部分の間接照明がユニークですね。左手に曲がるとCINEMA1に通じる通路です。


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奥に進むとCINEMA1へのコリドール。どこを見ても非常に清潔感があります。スタッフの方いわく「きれいな所もいつも清掃している」とのこと。忙しいなか、これはなかなかできることではありませんね。どこを見ても大切に使われ、整備されている様子が伝わってきます。せっかくのデザイナーズシネコンでもほころびがあっては台無しです。シネマデプト友楽はまるでオープンしたてかと勘違いするほど細部まで清掃が行き届いています。


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各劇場のサインはウッドパネルにシルバーの金具で取り付けられ、天井からの照明で照らされています。こういった何気ないところも丁寧な意匠で統一されていてデザイナーの意気込みを感じることができます。


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映画館めぐりの重要なチェックポイントであるトイレ。多数の来場者がある映画館では常時トイレを美麗に保つのは大変です。しかしご覧の通り、細やかな清掃が行き届いています!トイレも落ち着いた色彩と照明、そしてゆったりとした空間が確保されています。こちらは男子トイレですが大きな鏡に圧倒されました。映画館でこんなきれいなトイレ、なかなか見ることはできませんよ。


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高齢者層の来場が多いことを考慮してか、このB2Fには大きなベンチが設けられています。この写真を一見すると映画館には見えないかもしれません。企業ショールームか何か別の施設に見えませんか?街の喧騒から離れた静かな空間で映画を楽しむことができます。


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床面のカーペットを見るとなかなか色鮮やかなものも使われています。遠目に見るとシックに見えるのはトータルコーディネートがしっかりしているからだと思います。このカーペットはフロアによって異なっており、各階で微妙な個性の違いが楽しめるようになっています。


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これ、凄いです!友楽のロゴをデザインした特注のシャンデリア。チケットカウンターもそうでしたがこういう什器は全て特注品になります。全体的にシックな内装のなかでひと際目立つ存在で、フロアの良いアクセントになっています。


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最大館である4FのCINEMA5への通路。初めて来たとき、「ここはホテル?」と思うほどシックで落ち着いた雰囲気に驚きました。奥に特注のシャンデリアが見えていますね。建物自体がそれほど大きくないので広々とした印象はありませんが照明の妙や多用された鏡の効果で窮屈さは感じません。薄暗い照明が多いシネコンでこのくらいの明るさはとても新鮮に感じます。


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各階に設けられた売店カウンターです。ここでは過去の上映作品商品も取り扱っています。シネコンの場合、売店やもぎりを統一することで人件費の削減や効率化を実現していますがシネマデプト友楽はこのような立派な売店が各フロアに設置されていてスタッフが常駐するスタイルをとっています。各スクリーンにスタッフがいることで1人あたりのお客様への対応も余裕が持てますしお客様にとっては便利で安心感がある反面、スタッフの配置人数が増えて運営コストがかさむのは容易に想像できます。カウンターそのものも立派で、こちらも美しく保たれていて感激しました。


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CINEMA5の入口とロビーの遠景です。ロビーそのものはそれほど広くはありませんが、エレベーター前や階段も待合スペースにできるように広めに取ってあるので混雑時もスムーズな出入りが可能です。入口はきちんと遮光され、ロビーの光が場内に入り込まないように配慮されています。

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2010年6月 4日 (金)

File.116 シネマデプト友楽メモリアルVol.3

前回の記事から間が空きましたが、シネマデプト友楽メモリアルの第三回目です。今回は1階のエントランスをご紹介しましょう。



シネマデプト友楽メモリアルVol.3



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チケットカウンターです。カウンター下にオリジナルロゴがデザインされ非常に凝った作りになっています。こういう意匠はすべてオーダーメイドで制作されるので非常に手間暇がかかるものです。モニタには分かりやすく作品のビジュアルが示されているのは大手シネコンでもなかなか見かけないものですね。同時に閉館メッセージが表示されているのが泣けます。



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このような館全体の間取り図は映画館ではなかなか見られません。基本的に1フロア2スクリーンの縦積み構造で中央にエレベーターとロビーを配しています。スクリーンを対面構造にすることによりB2Fや2Fなどは映写室を1室にするなど縦積みシネコンならではの工夫が見られます。この場合、映写機はそれぞれが背を向けて配置されているわけです。通常1フロア展開のシネコンは映写室は1つとなり合理的ですが、複数フロアになるとそれだけ映写室の数も増えてコストがかかります。都市型シネコンの宿命ですね。



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シネコンのロビーは暗い照明や派手な色彩が多いなか、シネマデプト友楽はあくまでモノトーンにこだわっています。そして陽光が注ぐ明るいエントランスはとても気持ちが良いものです。このような雰囲気は立川シネマシティ(東京都立川市)を彷彿とさせます。こちらもデザイナーズシネコンとして著名ですね。



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外壁の意匠をエントランス部分の柱にも持ち込んでいます。単なる構造体として柱を立てるのではないところにこだわりが光ります。またこの柱はチケット売場と階段・エレベーターの区域分けの機能も果たしています。間接照明と陽光でメタリックな反射を持ち高級感があります。



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チケットカウンター脇にはどの劇場で何の映画を上映しているか一目でわかるように表示されています。液晶モニタやLEDモニタだけの映画館が増えていくなかで、手間がかかるにもかかわらずユーザー目線の細やかな配慮が随所に見られる映画館です。東京だと目黒シネマなどが同様に手作り感のある分かりやすいタイムテーブル表示をしていますね。スタッフの熱意を感じる1コマです。



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上階へと上がる階段。手すりも美麗に清掃され新作映画のバナーが飾られています。映画館の規模を考えるとずいぶんとゆったりとした幅を持つ階段で空間的な窮屈さを感じさせません。適度なライティングもあり映画の余韻に浸りながら下るのもいいものです。



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1Fチケットカウンター横の待合スペースです。ここではある催しが開催されていました。その催しとは…。



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過去上映作品の宣伝材料の一斉展示、および保存されていた映画作品のちらしやポスター、プレスシート等の大放出市!ポスターやちらしは上映後は廃棄処分されるので、多数の作品が保存されているのを見てあっけにとられました。



30 珍しい作品、懐かしい作品のチラシやポスターが山のように並べられ、すべて持ち帰り自由という太っ腹企画に大勢のお客様で賑わっていました。ここでは全ての展示品を紹介することはできませんがコレクターにとってはかなりレアと思われる作品も多数設置されていましたよ。31_2 

私もいくつか頂いてきましたがこれだけの量を保存しているのは、もう映画に対する愛情そのものとしか思えませんでした。お客様が入れ替わり立ち替わり持っていくのに圧倒的な在庫でなかなか減りません。特に古い作品は人気があるようで私も早めに頂きました(笑)。でも東京までの帰りが大変なのでポスターは1枚だけ頂きました。私も制作に携わった『GOEMON』です。



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在庫市で賑わうなか、自らの歴史に終止符を打ったことを示す新聞記事が掲示されていました。これにより奈良市から映画館が消えることになります。しばらく読みいっていると、感慨深くなりました。以前に週刊誌の取材で「くつろげる映画館」の取材協力を受けた際に私はシネマデプト友楽を推したのですが、そのときの掲載記事もしばらくここに掲示されていたということです。そんな矢先の閉館だけに寂しさがこみ上げます。

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2010年4月 3日 (土)

File.115 シネマデプト友楽メモリアルVol.2

閉館したシネマデプト友楽メモリアルの第二回目です。今回は本館建物の外観を見ていきます。



File.115 シネマデプト友楽メモリアルVol.2



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閉館のご案内看板。友楽の来場者の特徴として、あらかじめ見る作品を決めてこないでチケット売場で「何を見ようかな~」という雰囲気の方が多いです。そのためか閉館間際のこの日、閉館告知文章に驚いて足を止めるお客様多数。そして口々に「残念やなあ…」と閉館を惜しむ言葉を述べていたのが印象的でした。



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最終三日間は旧作ラインナップを500円で特別上映!
渋いチョイスに泣けます。もう『オペラ座の怪人』と『ニュー・シネマ・パラダイス』はイベント上映の定番となりました。奇遇と言うべきか1月29日に友楽と時同じくして『フラガール』の配給会社シネカノンが民事再生法の適用を申請しました。「プリントはどこに返したらいいんだろう?」とスタッフが困惑されていました。たしかに…。自分は友楽とシネカノンの同時閉業に驚いたので思わず『フラガール』を観賞しました。



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シネマデプト友楽本館の全景。奈良旧市街の中心に位置するランドマーク的な存在です。建築高自体は30m級で大きなものではありませんが、その存在感は秀逸。デザイナーズシネコンらしい瀟洒なデザインと大胆にあしらわれたロゴマークが素敵ですね。1Fにモスバーガーが入居しており場内に持ち込むことも可能です。



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外壁は縦横のラインを強調したデザインとなっています。一見すると単なるアクセントにしか見えませんが実は平城京の街路を意識したデザインになっているんですね。上部の変則的な見せ方は寺社建築のような趣すら漂います。
私は最初にこの建物を見たとき、丹下健三氏の代表作・香川県庁舎(東館1958年、本館2000年竣工)を思い浮かばせました。和の意匠を取り入れた現代建築である県庁舎東館と、アルミカーテンウォールで縦横を強調した超高層本館の関連性と近いものを感じました。シネマデプト友楽のアーキテクトデザインは道下浩樹氏の手によるもので氏の手がけた作品のなかでは大規模なものに属するでしょう。
大手シネコンもやはりデザイナーの手によって設計が行われていますが独立系興行会社でこれだけ手の込んだ映画館を作り上げたのは立川シネマシティ(東京都立川市)と友楽くらいかと思います。



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CとYをモチーフにしたオリジナルロゴマーク。「シネマ・デプト」とは映画のデパートを意味して名づけられました。この映画館ができた頃、まだ「シネマコンプレックス」という言葉は存在しませんでした。友楽が全国展開でもしていたら、もしかしたらシネコンという言葉は生まれなかったかもしれませんよね。



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三条通りに違和感なくたたずむ姿は古都の映画館らしいと思います。通りから少し奥まって建てられているので威圧感はありません。まさにこの地域のランドマークです。閉館すると町の活力が地盤沈下するのではないかと心配になります。



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ステンレス製のメタリックな看板がアルミの外壁に違和感なく溶け込んでいます。派手さを意識することが多いシネコンにおいて、外観はともかく内装まで落ち着いた「和」をデザインした珍しい映画館なのです。この看板は夜になるとライトアップされ、ことさら美しく夜の町に映えます。



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建物わきの換気口。建物に魅せられているとこんなものまでちょっとお洒落に見えれしまうのが困りものですが、明らかに建物との調和を意識したものになっていますね。すぐ左側が本館です。



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日本初のシネマコンプレックスとされるワーナー・マイカル・シネマズ海老名(神奈川県海老名市)に先駆けること3年。ある意味、友楽こそがシネコンの元祖といっても過言ではないでしょう。典型的なアメリカンスタイルのシネコンの登場こそ海老名になりますが、友楽は根本的にシネコンの定義をすべて満たしているので先見性のある映画館だったと思います。

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2010年3月11日 (木)

File.114 シネマデプト友楽メモリアルVol.1

古都奈良市から映画館のともしびが静かに消えた。1942年に奈良ニュース映画館としてオープンし、90年には全国に先駆けてシネコンスタイルを採用したシネマデプト友楽だ。デザイナーズシネコンとして飽きのこないシックでおしゃれなデザインや考え抜かれた導線構造など随所に至るまで独立系映画館らしいこだわりが感じられる素敵な映画館でした。

近隣地域への大手シネコンの進出による競争激化と奈良市中心部の空洞化によりシネマデプト友楽の動員数は年々低下。年間来館者数も25万人を割り今後の動員回復の見込みが見込めないという判断で急きょ68年の歴史に幕を下ろすことになりました。

何度も紹介してきた日本で最初のシネコンであるワーナー・マイカル・シネマズ海老名が1993年オープンなのに対してシネマデプト友楽はいち早くシネコンスタイルを採用したまったく新しいタイプの映画館。計8スクリーン、1,142席を有する中規模シネコンではありますが2005年の改装により国内でも類例の少ないデザイナーズシネコンとして生まれ変わった矢先のことで当方もショックを受けました。先年には『週刊文春』誌に「おすすめのくつろげる映画館」として推薦した身としては寂しい限りです(参照:File.112 くつろぎの映画館)

このときの推薦文をご紹介します。
「“平城京を現代風に再現”
奈良市の中心部に立地するデザイナーズシネコン。名前の由来は「映画のデパート」で90年のオープン当時、まだシネマコンプレックスという言葉が存在しなかった頃に名づけられたものだ。
古都の中心に位置していることと、幅広い年齢層を迎えるために派手な色使いや導線を大胆に排除しモノトーンの落ち着いたロビー環境を構築している。平城京の格子街路をモチーフにデザインしつつ、格調高い雰囲気を醸し出すことに成功している。そのこだわりは劇場内にも及び、スピーカーを壁面に埋め込みカーテンを吊ってスマートな壁面を実現したほか、色彩も抑えて高年齢層の来場にも配慮されている。
座席は国内メーカーの特注品で長時間座っても疲れない特殊構造のうえスーパーハイバックタイプ(背もたれが頭部まである)。そのため上映時間の長い映画でもリラックスして映画を見ることが可能だ。座席配列は段差の大きいスタジアム形式ではなくスロープ式だがスクリーンの位置と座席の角度を計算して設計しているためどこからでも見やすい視野を提供している。
映写機が1スクリーンにつき1台が通例のシネコンでは非常に珍しい、1スクリーンに2台の映写機を配置して昔ながらの切り替え映写を行っている。万が一にも映写機にトラブルが発生した場合はもう1台の映写機でバックアップができるなど観客にとっても安心な利点の多い映写方式である。高年齢層まで支持される落ち着きあるデザインプランはもちろんだが、映写に対して安心できるというのはくつろぎの条件と考えたのでベスト10にランクインした。」(抜粋)

シネマコンプレックスと言う和製英語がまだ無かった頃に時代を先取りした先進の映画館。閉館は潔い決断とは言え、唯一無二の個性を持つ素敵な映画館だっただけにショックは大きいです。今回はシネマデプト友楽の魅力が少しでも広く伝われば…と思い記事を上梓します。
これまで撮影の多くをフィルムカメラで行ってきましたが、このたびパソコンの買い替えによりフィルムのスキャンが不可能となりました。よって写真店が行っている150万画素相当の低画質でのスキャン画像掲載となります。またHPの更新にも不具合が発生しています。拙サイトを楽しみにされている方にはまことに不本意ではありますが更新頻度の少ないことと画像の低画素化をご了承ください。



シネマデプト友楽メモリアルVol.1



シネマデプト友楽DATA
所在地:奈良県奈良市角振町6
開館:1990年
総劇場数:8スクリーン
総座席数:1,142席
CINEMA1(120席)SRD、dts
CINEMA2(119席)SRD、dts
CINEMA3(115席)SRD、dts
CINEMA4(118席)SRD、dts
CINEMA5(244席)SRD、dts
CINEMA6(118席)SRD、dts
CINEMA7(200席)SRD、dts
CINEMA8(108席)SRD、dts


1
徹夜明けのまま新幹線に乗り込み京都駅経由で、単身奈良へとやってきました。今回は東大寺も興福寺にも行かず、シネマデプト友楽のみ行ってきました。神鹿すら見ていません。




2
近鉄奈良駅の改札上ではせんとくんが出迎えてくれました。この奇怪なデザインに慣れてしまった自分が心配…。


3
奈良に到着!駅から歩いて数分の好立地に映画館はあります。


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手作り感あふれるスケジュール表。シネマデプト友楽は本館とイースト館に分かれています。デザイナーズシネコンと言う点でも立川シネマシティ/CINEMA・TWOを彷彿とさせます。


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ポスターケースの下には駐車場の案内が。大型ショッピングセンターと併設していないので専用の駐車場を設けて利用者の便宜をはかっています。


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別館の外壁のレタリング。今となっては味のあるこの書体。私は好きです。


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別館に隣接する建築群。かつてはゲームセンターなどが入居していた記憶があります。すでに閉鎖され、内部には『のだめカンタービレ最終楽章 前編』の巨大なスタンディーが飾られています。


8
劇場裏手から見た新館。この地区のランドマーク的な建築でありながら街路にすっかり溶け込んでいます。とくに低層部のテクスチャを和風にアレンジしている芸の細かさには思わず目を見張りました。こういったこだわりがこの映画館のおもしろいところであり魅力なのです。


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でも側面からみると結構キッチュなデザインも兼ね備えている(笑)。内装のシックさとは大きく異なるポイントです。


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平城京の街路をモチーフにした洗練されたファサードに比べて裏側はごく普通のビルと言った趣です。自己主張が少なく奈良の町に溶け込んでいますね。


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右手に見えるのは奈良のシンボル興福寺五重塔(国宝)。奥に若草山が見えています。シネマデプト友楽は奈良旧市街の中心に位置していて、文化施設として欠かせない都市機能でありました。

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2009年11月15日 (日)

File.113 試写流出

先日発行された業界紙で、映画館の業務テスト試写における「情報流出」についての記事が掲載されました。業務テスト試写については過去記事も合わせてご覧ください。

映画館では上映用プリントに不具合や問題がないかをチェックするために、作品の公開日に先立って映写スタッフの手でテスト試写を行います。テスト試写はプリントの品質チェックのほかに上映機材の動作チェック、編集作業(プリントを上映できる状態にする作業のこと)に問題がないかなどを念入りに確認するのが目的で、この業務は基本的に映写スタッフが行うことが前提ですが映画館によっては映写以外のスタッフにも参加を許しているところもあります。自館で映画を見ることも勉強のひとつであり、私自身もこれについては問題はないと考えています。

先述の記事にある「情報流出」というのは、このテスト試写で見た作品の内容をインターネットで公開している者がいて、劇場スタッフの特権だとなかば自慢するように書かれていると指摘しています。

個人的な結論は、テスト試写はあくまで品質管理のために行っている業務であり、作品の内容を他言することを推奨しているわけでは決してありません。よって公開前に職務上の権限でもって観賞した作品の内容を不特定多数に公表することは好ましいとは思いません。

テスト試写における作品内容流出の是非については賛否両論あると思います。自館の映画=商品を宣伝する行為であればOKと考える方もいらっしゃるかもしれません。一般試写会やプレス・映画評論家向けの試写会については宣伝することを目的に開催されるので、観賞者が内容に言及するのは問題ないでしょう。しかし映画館におけるテスト試写はあくまで「業務試写」であって、内容を見るのが目的ではないのです。すでに一般試写会が大々的に行われている作品ならばいざしらず試写会が行われていない作品でも同様な事例が起きていると記事には書かれています。それを特権と称して公表するのはモラル面で歓迎されることとは思えません。

映画が完成して映画館にプリントが納品されるまでに、数多くのスタッフや企業が関わっています。映画館はそのなかで最後に作品にタッチするところです。作品の規模や話題性にもよりますが、制作スタッフや関係者は作品の内容については公開前に外部には公表しないのが常識です。制作スタッフではない、たとえば洋画の字幕翻訳家や宣伝会社、映画現像所のスタッフであっても内容や作業内容について他言することはありません。彼らは映画館のスタッフとは比較にならないほど早い時期に作品を見ていますが、それは業務上で必要なためで他言する理由にはならないのです。話題作を担当するときは内容に関する一切の情報に関しての守秘義務が受託条件になる作品もあります。

もし公開前の作品内容が流出した場合は会社にとっての信用問題に直結します。映画制作スタッフや関連企業の契約は互いの信頼関係によって成り立っているところが大きく、ひとたび信頼を損なうと回復させるのは容易ではありません。作業中の作品の情報を第三者に漏らすことはたとえスタッフ個人の出来心であっても結果的に会社全体の信用力低下として打撃を与えます。映画界に限らず社会とはこのような信頼でつながっていることは言うまでもないことです。
映画館のアルバイトといえども映画業界に関わっており、数多くのスタッフが心血を注いできた作品をお客様にお届けする大切なお仕事です。業務試写で見た作品を特権と称して語ることに良い印象は持てません。

ひどい場合になるとテスト試写から映像や音声までもが流出した事例も過去にあります。違法行為であって許されることではありません。公開前の情報流出はこのような行動へエスカレートしていく原因になることも危惧されます。悪気がない行為でも信用低下はもちろんのこと権利者の権利を侵害する恐れがあることを念頭に置いて業務に当たる必要はあると思います。

近年は配給会社も劇場内での映画の撮影・録音を警戒して様々な手段を講じるようになりました。日本でも大ヒットしたハリウッドの某話題作は最後巻(映画のプリントはいくつかの巻に分かれている)だけ公開日間際に別納する方法が取られました。言うまでもなくテスト試写からの内容流出を懸念しての処置です。この場合はすべての編集を終えてからでないと正確な試写ができないためにある程度の抑止効果はある半面で、公開直前の編集や試写業務は映写スタッフへの負担を強います。一部の心ないスタッフの行いによって現場に負担がかかるのは決して望ましい状況とは言えませんし、本編前に盗撮抑止キャンペーンフィルムを上映しなければならないなどお客さまに対しても心苦しい結果を生み出しています。

そのためポジティブな内容であっても、テスト試写に参加したスタッフは業界関係者として未公開新作の中身に大々的に触れることは避けるべきだと考えます。本当に集中して品質チェックをしていると、内容まであまり気が回らないものです。テスト試写が本来あるべき役割を果たせるように、参加するスタッフも真剣に作品に向き合ってほしいと願います。

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2008年6月10日 (火)

File.111 IMAGINE…

多数の観客と同じ時間を共有して映画を楽しむことは映画館ならではの醍醐味と言えるでしょう。映画館での映画鑑賞は“映画体験”と言い換えても良いほど家庭でのそれとは大きな違いがあるように思います。大きなスクリーンと充実した音響設備による効果はもちろんですが、大勢で同じ映画を鑑賞するというシチュエーションが、人間の感受性に与える影響は大きいのではないかと思われます。封切時に金銭を支払ってでも映画館で映画を見るという行為は、映画を共同で鑑賞体験する環境そのものにもお金を出していると考えて良いのではないでしょうか。

ある映画館で流れる本編前映像での「みんなで笑えば興奮100倍 みんなで泣けば感動100倍」というフレーズはこのことをうまく指していると思います。映像・音響テクノロジーの進歩で映画の演出表現は着実に向上しています。そして同じ作品を見に来た大勢の観客と共に泣き笑える映画館は、映画表現をさらに効果的に高めた体験ができる場所であると管理人は考えています。

しかしその一方で不特定多数の方が大勢集まる場所であるがゆえに、お互いが心地良く過ごせるように配慮をしなければせっかくの映画も台無しになってしまう危険もはらんでいます。今日はこれまでとは違う視点での映画館の話、鑑賞マナーについてお話しようと思います。


映画館特有の環境

都市部に住んでいる方は連日の満員電車通勤などで不特定多数の人と同じ時間を過ごす機会が多いことと思います。映画館も不特定多数の方が集まる点で満員電車と変わりはありませんが環境面で大きな違いがあり映画館特有の環境として以下が挙げられます。

・静寂の保たれた空間であること
・暗闇の保たれた空間であること
・映画鑑賞に集中できる空間であること

大まかに挙げるとこの3点が映画館の鑑賞環境で重要項目となります。3つめに挙げた「映画鑑賞に集中できる空間」で映画を楽しむためには、他のお客様への迷惑にならないように鑑賞マナーを守って時間を過ごす必要があります。
映画館では鑑賞マナー啓蒙のためにマナーCM上映や注意喚起のアナウンス等を行っているところが多く見られます。これらを理解して正しい鑑賞マナーを身につけたいものですね。


鑑賞マナーは映画館のルール!

しかし残念なことに必ずしもすべてのお客様が鑑賞マナーに対して理解されているわけではないようです。一部のお客様による迷惑行為によってお客様同士のトラブルや苦情が発生するのは日常茶飯事です。悲しいことではありますが近年の鑑賞マナーの低下は著しいものがあるように感じています。みなさんのなかにもマナー違反によって映画に集中できなかった経験がおありの方も大勢いらっしゃると推察します。

ここでは具体的な鑑賞マナーについて多くは申し上げません。映画に集中できてみんなが映画を楽しめる環境のために守るべきマナーは周りの人々へのちょっとした気配りで実現できるはずなのですから…。

海外では映画の上映中に大きなリアクションをとったり会話をすることが珍しくない地域も多くありますが、日本の映画館は静かに鑑賞するのが一般的です。映画館で映画を楽しめるように、ひとりひとりが配慮をしたいものですね。


これだけはやめて!

映画館で多発するマナー違反。ここでは特に悪質なもの・困るものを挙げてみます。マナーを守って利用されている大多数の方にご覧頂くのは恐縮ではありますがご容赦くださいませ。


・チケット未購入での他作品上映スクリーンへの侵入
シネコンなど複数の上映スクリーンがある映画館では様々なタイトルを上映しています。映画の上映チケットは基本的に同一作品に限り有効となっています。指定制および入替制の映画館は当該上映時刻のみ有効です。したがって1枚のチケットで他の作品を見ることは禁止されています。悪質なケースとして鑑賞後に他のスクリーンへ侵入して無銭で“はしご”されている例がありますがこれは窃盗です。発覚時点で警察引渡しの対象となります。

・上映作品の録画・録音行為
上映されている作品は著作物として保護されており、無断で録画・録音を行うことは法律で禁じられています。盗撮行為としてこれも発覚時点で警察へ引渡しとなります。一部作品においては撮影された映画館が特定できるものもあり、この場合は場内監視カメラなどを解析して容疑者を特定・逮捕することができます。違反者には10年以下の懲役刑など重たい刑罰が科せられます。

・器物破損行為
器物破損というと何やら破壊行為のように思われる方もいらっしゃるかもしれませんがちょっとしたことでも映画館の営業に支障が出る行為がいくつかあります。たとえば好奇心で上映スクリーンに触れるなどの行為。スクリーンの表面は塩化ビニールに金属の酸化物をベースとした特殊コーティングを施したもので大変にデリケートです。不用意に触れると手指のわずかな油脂でもシミとなって定着してしまい、これを除去することはできません。スクリーンには絶対に手を触れないようにお願いいたします。またサラウンドスピーカーなどもデリケートです。上映機材に触る行為は性能を損なったり破損につながります。座席の座席フックやドリンクホルダーなども大切に扱ってください。

・展示品の持ち去り行為
ロビーに掲示してあるポスターやスタンディーなどの宣伝物は配給会社から作品の宣伝用途のみに使用する許可を得て展示してあります。作品キャラクターのぬいぐるみなどは欲しくなる気持ちはよく分かりますが配給会社の所有物をお借りしているものです。持ち去り行為はたいへん困ります。

・劇場内での公序良俗に反する行為
まれなケースですが劇場内で公序良俗に反する行為に及ぶ方がいらっしゃることがあります。他のお客様が非常に不快な思いをするのは言うまでもありません。また上映後に後処理をするスタッフもたいへんです。ここでは公序良俗に反する行為とまとめて記述しますが様々なケースがあって想像を超えることも…。

・ゴミの不始末
楽しい映画が終わってみると場内はゴミの山…悲しい光景です。ゴミはロビー備え付けのゴミ箱までお持ちください。「自分くらい」という気持ちでも大勢集まると収拾がつきません。清掃時間に必要以上のスタッフを要すればそれだけ他のサービスが手薄になり、開場準備に要する時間も増えてしまいます。200席程度までの劇場ならば2人程度で対処可能ですが350席を超えるクラスになると5~6人以上で対応しないと間に合わなくなります。座席の奥にゴミを隠すなど悪質なケースも。言うまでもありませんがゴミはゴミ箱に。

・暴力行為
滅多にないこととは言えお客様同士や従業員への暴力行為も発生します。飲酒状態で発生することが多いです。理由はどうあれ暴力行為や恐喝行為は他のお客様に危険が及ぶため警察に通報することになります。

・痴漢・わいせつ行為
劇場内が暗いのを良いことに痴漢行為を行う人が出没することもあるようです。痴漢防止のため上映中に薄っすらと照明を点灯している映画館もありますが、犯罪抑止のために鑑賞環境が犠牲となっている例です。れっきとした犯罪でマナー以前の許しがたい行為です。

・禁煙場所での喫煙
映画館での火災は大きな懸念事項です。そのため近年の映画館は不燃建築材料や火災通報装置の設置で防災に取り組んでいます。消防条例等により多くの都道府県で劇場内での喫煙は禁止されています。また劇場施設全体が禁煙となっている映画館での喫煙はおやめください。映画館の火災通報装置は上映機器と直結しているためたばこの煙や熱による誤報でも安全装置が作動して全スクリーンの上映が停止します。発覚した場合損害賠償請求の対象となるので、喫煙は定められた場所でお願いします。


想像しよう

マナー違反のなかでも特に悪質なものを列挙してみました。悪質ではないにせよ他にも上映中のマナー違反は数多くあり、枚挙にいとまがありません。みなさんに気持ちよく映画館をご利用いただくためにも、他のお客様に配慮をして映画を楽しんでいただきたいと思います。

映写の視点からでは劇場内は携帯電話の電源をOFFにしてください。通話はもちろん、マナーモードでもバイブレーションの音や液晶画面のバックライトなどは周囲のお客様の映画鑑賞の妨げとなります。よりよい環境で映画をご覧頂くため映画館は場内の暗さや消音設備などにも気を配っています。バイブレーションのわずかな音やバックライトでも上映中は非常に目立つものです。

どういう行為が周囲の迷惑になるのかIMAGINE(想像)すれば、おのずとマナーは向上するのではないでしょうか。一部の人の行いで「映画館では集中できないから行かない」と言われるのは悲しいものです。快適な環境は映画館で気持ちよく大勢で楽しむために、ひとりひとりがマナーを守れば実現できること。映画を見るのにわざわざ周囲の人への想像力を働かすなんて…と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、本来なら想像しなくても自然に身についているはずのマナーだと思います。

本日は読んでいて楽しくない記事だったかもしれません。この文章で変化があるか分かりませんが、鑑賞マナーの向上を願わずにはいられません。せっかく時間とお金を使って映画館に行くのですから気持ちよく楽しみたいものですね。

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2008年5月 3日 (土)

File.109 WMC東岸和田メモリアル 5

連載記事「ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田メモリアル」の最終回です。日頃から「もっと映写のことを書け」とご要望を頂いているので今回は映写の観点から5番スクリーンの所感を記して締めくくろうと思います。

5番スクリーンはWMC海老名7番スクリーンと同時に国内で初めてライセンス供与されたTHX映画館の最古参です。座席数は476席、スクリーンサイズ6.4m×14.94mの堂々たる規模は開館から15年経た今も色褪せません。

オープン当時は「東に海老名、西に東岸和田あり」と呼ばれるほど抜群のブランド力を発揮し、劇場入口の発光型THXサインパネルからもその自信の程が窺えますね。
今でこそ国内のTHX認定館は50サイト101スクリーン(2008年4月現在)まで増加しましたが、認定館の新規開業が停滞している現在は再びTHXの希少価値が上がっているように思います。なお商用映画館の国内初認定は前述通りWMC海老名と東岸和田ですが、立川シネマシティも同時期に初認定を目指していました。

オープン時は世界最先端の設備を有した映画館としても知られました。それまで一流設備と評価されていた北野劇場(大阪市北区 1980年開業)や日本劇場(東京都千代田区 1984年開業)とは一線を画するTHXに準拠した音響設備構造を構築して、日本に新次元の映画音響をもたらした功績は計り知れません。


5番THXスクリーンを観察


映像品質を低下させるスクリーンへの反射光を低減するために場内のカラーリングはモノトーンでまとめられています。この頃は側壁が白色の映画館も多くありました。
壁面はグラスウールで加工されTHXの残響規定をクリアする設計となっています。スピーカーも壁面に埋め込まず直接取り付けて音声品質の低下を防いでいます。



22基のサラウンドスピーカーが客席をくまなく取り巻いています。サラウンドスピーカーのセッティングはTHXの指定で決定され小型のスピーカーで客席全体を包み込むように設置するのが定石です。このスピーカーは旧タイプのJBL8330で現在は販売されていません。日本各地の映画館で今も活躍しているので見覚えのある方も多いと思います。



WMC東岸和田のスクリーンサイズになると縦幅が6mを超えます。客席の配置が緩いスロープ構造だと前の人の頭がスクリーンに被さるので画面の設置位置を高くする必要があります。この方法は画面を見上げる角度が急になってしまうデメリットがあります。
この劇場ではスタジアム形式で客席の段差を大きくし、多くの座席でスクリーンを見上げることなく見やすい視野環境を提供しています。サイドブロックの座席が内側方向に設置されているのも工夫のひとつ。おかげで画面と客席に一体感が生まれます。またスクリーンと客席の位置を揃えることにより音響の品質向上にも一役買っています。



連載の4回目にも書いたことですが、当時の常識からすると大都市の大劇場ではない収容人員500名を下回る劇場で横幅15m級のスクリーンは非常に大きなサイズでした。日本劇場(1008席)9m×18m、新宿プラザ劇場(東京都新宿区 1044席)7.5×18.1mなどの国内最大級の劇場と比べてみれば客席数に対する画面スケールは明らかです。
全デジタル音響方式を装備した点も革新的でした。画像のように幕間にはdtsのロゴが映し出されていました。



映画の音声がモノラルやステレオ主流の頃は音を壁で反射させて擬似的な音響立体感や響きを創生する手法が多用されました。デジタル音響が主流となりつつある現在は緻密なサウンドデザインを明確に再現するために場内の残響を極力抑える設計が主流です。WMC東岸和田は8スクリーン全てに吸音構造を採用。アナログ音響からデジタル音響まで効果的に再生できるように設計されています。
なかでも残響特性はTHX規格で特に基準が厳しく決められている項目で、各周波数帯域ごとに最大値と最低値が定められています。この規格内に残響時間を収めたのは海老名と東岸和田が国内の映画館で最初です。古い映画館では残響時間が2秒以上というクラシック音楽ホール並のところもあり、映画再生にとってこのような過度な残響があると台詞が聞き取りづらくなったりエコーがかかったりして音の情報量が著しく低下します。



映写室の下に空間がある一風変わった構造になっています。本来ならば「映写室が張り出している」と形容できるところですが、張り出し部の下に座席がないのですっきりとして見た目も良いですね。これでもかと設置されたサラウンドスピーカーが大迫力です。
リア壁面はかまぼこ状の音響調整素材が並べられフロントからの音声を効果的に吸収すると共に、リアサラウンドの音の定位を拡散させる構造になっているようです。
後部壁面の形状や吸音性・音反射性は箱全体の音響特性に影響を与える重要な部分です。THXは明瞭な台詞再生を重視して劇場後部の音反射を抑制し、スクリーンへの反響を起こさない劇場設計を推奨しています。この設計思想はTHXの認定を受けていない多くの映画館でも支持されています。スクリーン裏のメインスピーカーと相対する場所だけに気を遣うところですね。




鑑賞の感想


この日は5番THXスクリーンで『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』を鑑賞しました。音響方式はドルビー・デジタル(SRD)です。上映に先立って劇場マネージャーの方によるスクリーン前でのご挨拶がありました。15年間の感謝の意がこもった挨拶に思わず拍手…。場内の他のお客様も拍手をされ、ほのぼのとした雰囲気での上映開始となりました。

閉館する映画館なので予告編の上映は無し。ポリシー映像に続いてTHXトレーラー「TEX2 MOO CAN」とドルビー・デジタル・トレーラー「EGYPT」の上映。本来であればTHXトレーラーが後に上映されるはずで変則的な順序ですね。トレーラーは使い古されて変色し、音量も不足していましたが省略せずに上映していたことは大変嬉しく思いました。サウンドトレーラーは仕方がないとしても、THX認定の映画館はアドバンテージとなるTHXトレーラーは省略してほしくないと個人的に思います。

さて、音響マニアの間では総じて厳しい評価を受けることの多かった5番THX。以下は一個人の感想であることを前提でお読みいただけたら幸いです。


映写について


まず鑑賞時の映写能力については一級の品質を示していたことを書き記したいと思います。
連載で触れた通り5番スクリーンは映写室が高い位置にあるうえにカーブのついたスクリーンを使用している関係上、スクリーン全面にフォーカスを合わせるのが難しい造り。映写俯角がきついほどコサイン誤差と呼ばれるフォーカスのずれが生じ、画面に均一な焦点を合わせることができなくなるのです。これをどれだけ均一かつシャープに調節できるかが映写技師の腕の見せ所とも言えます。この大きな俯角でもTHXの基準に収まるのは意外に感じました。

映写機とスクリーンの水平ラインが正対すると左図のように適正な映写が可能。俯角が大きいほど右図のように台形状の歪曲が生じ画質の低下とフォーカスの不具合が発生する。この問題はスタジアム形式の映画館でよく見受けられる。

ちょっと小難しいお話しになってしまいましたが、要するにWMC東岸和田5番スクリーンは良好なフォーカスを出すのが少々難しい劇場なのです。

この点において隅々まで非常にシャープな像を結んでいた映写技術は素晴らしかったです。フィルム画像の粒子がきちんと分離して確認できました。そして使い込んでいる映写機のはずなのに画面の揺れも抑えられており高品質な映写で映画を楽しむことができました。欠点としては輝度が弱く画面が暗かったことでしょうか。暗さが作品の雰囲気にはマッチしていたもののもう少し上げるべきでしょうね。

映像は切れ味に優れボヤけた感じのないクッキリ目の再現。闇の再現が奥行き深く表現され、暗部に上品な艶やかさが感じられます。シャープネスと立体感が際立っているので映像に説得力がありました。総じてとても気合いの入った映写と見て取れ、輝度が暗い以外は気になることはありませんでした。もう少し明るい映写であれば解像感や階調もさらにはっきり分かったと思います。


音響について


音響は個性のある箱です。特筆すべきは台詞再生を主に担当するセンタースピーカーの音が生々しいこと…。いわゆる肉声感と言いますか人の声が生っぽく聞こえる個性が際立っています。フロントの音場はスクリーンの前に立体的に創生され、音楽や環境音を担当するL・Rスピーカーとセンタースピーカーが程よく分離独立して再生されているのは見事です。
そして緻密に配された22基ものサラウンドスピーカーとフロント音声が一体化して濃密なサラウンド音場を展開。

台詞再生で肉声感を強く感じる映画館は多くありません。5番スクリーンは息遣いまで感じ取れるような繊細な表現力を有しており、音響の派手な映画よりはミュージカル映画や重厚な人間ドラマの上映に適している印象を持ちました。またフロントの拡がり感やサラウンドの濃密な表現は海老名7番THXに共通した個性と言えそうです。

その一方で音の切れ味、解像感に鋭さはなくマイルドな味わいと言えます。フロントの残響は海老名よりも控えめですが聴感上での全体的な残響成分はTHXとしてはやや多めに感じられました。これはサイドに張り出した梁や劇場の形状に起因するのではないかと思います。
メインスピーカーとサラウンドスピーカーの一体感と音場の厚みは素晴らしく、リアの音響調整素材による拡散効果も感じられました。

メリハリがあって解像感ある音響や派手な重低音やサラウンド感を求める向きには多少不満が感じられる音かもしれません。管理人の印象では肉声感のリアリティは素晴らしいと思いましたし、一歩前に出てくるフロント音場の存在とサラウンドとの一体感は他ではあまり感じられない特徴で気に入りました。くせの少ない音でサラウンドの音源が柔らかく全体をカバーしているのもTHXらしいと思いました。響きが多少なりともあり箱の後部と上部で音がやや濁る点が惜しいですね。

映像と音響の品質を考えれば、はるばる訪れてこの劇場で鑑賞できて良かったと思いました。11年前にここで『コンタクト』を見たときの衝撃はまんざらでもなかったなあと実感することができ、建設から15年の歳月を経た最初のシネコンとすれば充分及第点と言える劇場です。


さようならWMC東岸和田


自分が映画館に関心を示すきっかけを与えてくれた映画館の閉館は寂しいですが、ロビーのメッセージ掲示やスタッフの閉館挨拶などフィナーレを締めくくるのに充分な記憶を自分の心のなかに留めることができました。今後はWMCりんくう泉南が後任となって業務を引き継いでくれることでしょう。WMC東岸和田で見た作品数は多くはありませんが、5番THX以外のスクリーンも思い出として大切にしまっておこうと思います。

15年間おつかれさまでした。
さようなら、ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田。

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2008年4月17日 (木)

File.108 WMC東岸和田メモリアル 4

しばらくの間、更新をお休みさせていただいておりました。
ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田閉館特集の四回目です。閉館をむかえたロビーの掲示物が目をひきました。



WMC東岸和田メモリアル Vol.4




閉館告知

閉館理由「施設の老朽化等により」と含みを持たせているあたりに様々な要因があったことを想像させます。商圏や地域購買力を考えれば大阪府下に3サイトの展開は意外に少ないように感じられます。しかし大手チェーンの109シネマズ、シネプレックス、ティジョイ、ユナイテッド・シネマの4社が大阪府に各1サイト展開であることを考えればWMCは多いほうですね。埼玉県や神奈川県のシネコン過密進出のほうが異常なのかもしれません。




15年分のありがとう

SPECIAL THANKS FAIRと題して1月5日から閉館までの一ヶ月間、15年間のヒット作19作品を500円で提供。また岸和田にゆかりのある『岸和田少年愚連隊』『だんじり』を無料上映。総決算として閉館間際の三日間は封切中の全作品が1,000円で上映されました。収益の一部は岸和田市社会福祉協議会への車椅子15台寄贈として活用されました。

こういう短期間での企画上映は映写スタッフにとって大変な重作業になります。
編成部は映画配給会社と上映契約を締結、プリントを手配→編集作業→試写チェック→上映→解体作業→返送…この繰り返しです。旧作品はプリントの状態が良くないものもあるので取り扱いにとても神経を使います。
またスクリーンを多く持つシネコンでも大量の上映作品を控えると上映に必要な巻き取りリングアセンブリ(通称リング/ワッパ。ノンリワインド・1台式映写で必要となる
)と呼ばれる部材が不足するので他のサイトからかき集めて対応することになります(参照 File.71 映画祭とフィルムの山)




多くの思い出がつづられたメッセージカード

ロビー特設コーナーでお客様からのメッセージが多数紹介されていました。この映画館を支持する人々の熱い思いが感じられました。すべてのメッセージをご紹介できず残念です。お客様の数だけこの映画館にはドラマがあったんですね…。




悲痛なメッセージも…

このメッセージを書いた女の子はどういう気持ちだったのでしょうか。





スタッフのメッセージ

お客様からのメッセージに対して、劇場スタッフの皆さんからも一筆が添えられていました。スタッフひとりひとりの頑張りで15年の歳月を刻んできたのだと思うと、奇しくもクロージングスタッフとなった皆さんの気持ちはいかばかりでしょうか。みなさんお疲れ様でした。MGの皆さんもきっと新天地で頑張っていることでしょう。

「シネコンは工業的で無機質だ」という厳しい声を耳にすることがありますが、WMC東岸和田は手作りのPOPや掲示で親しみのわく劇場空間が構築され居心地の良いシネコンでした。その裏側には様々な努力を重ねてきたスタッフの姿が見えます。お客様にはきっとそのことが伝わっていたと思います。人の温もりや心遣いを感じる映画館、WMC東岸和田。私にはそう感じられました。

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