カテゴリー「映写のお仕事」の記事

2012年11月23日 (金)

映写機材 譲ります!

寒くなってきましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回、閉館した映画館様の機材譲渡のご案内を頂戴しましたので、当サイトでご紹介させていただきます。ご興味のある方はお取次ぎいたしますので本エントリー末文の赤字部分をご了承のうえご連絡ください。

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ヘッドミシン:CHRISTIE P35GPS(SRリーダー付) 多数あり

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ヘッドミシン(写真2)



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コンソール:CHRISTIE SLC30~45(30,40,45各種/60Hz仕様) 多数あり

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映写機オートメーション:STRONG CNA-200 多数あり

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スクリーン:マットタイプ/ノーマルパーフォ(各種サイズ) 多数あり

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SDDSプロセッサーDFP-3000 複数台あり

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SRDプロセッサー:DA20(2台)

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サウンド分配器:USL MDS-1400/2600(1台)

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SDDSサウンドヘッドリーダー 多数あり

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シート:イトーキ社製(ワインレッドカラー ハイバック) 多数あり

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サラウンドスピーカー:Klipsch KPT-200(THX認定) 多数あり

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ステータスパネル:STRONG RSM-10 多数あり

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チャイルドシート:SMART PRODUCTS 多数あり

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編集台:Kelmar RTV-8900(3台)

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場内オートメーション:STRONG BTC-10 多数あり

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テイクアップリング(留金なし) 多数あり

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メイキャップテーブル:CHRISTIE MK35(3台)

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1200mリール 多数あり

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Kelmarフィルムクリーナー(予備メディア付) 2台

その他
フィルムセンサー:FP-350 多数あり
dtsデコーダー:DTS-6D 2台
dtsサウンドヘッド 2台
フィードコントロールAssy(センターユニット、ブレイン) 多数あり
プラッターカバー 多数あり
キセノンランプ:OSRAM(3K~4.5K USED) 多数あり
メインスピーカーシステム:Klipsch 多数あり
スピーカーケーブル:Vampire Wire 1ロール
アームローラー(インターロック延長可能) 多数あり



当サイトは出品者への仲介を行うだけで、本件に関わる全ての取引交渉は譲渡希望者が行うこととし、当方は一切の責任を負いません。また交渉の補助は行いません。紹介機材以外にも映画館物品が多数あります。詳細は出品者へお問い合わせください。
機材は映画館で使用されていたものですが状態、動作は一切保証いたしません。また技術的なアドバイスも行いません。

全てにおいて自己責任でお願いいたします。
仲介期限は2012年12月7日までとさせていただきます。

ご希望の方は下記までお問い合わせください。(お名前、電話番号、メールアドレス必須)
お問い合わせフォーム

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2010年6月18日 (金)

File.119 CINEMA・TWO音響調整レポート

2010年6月13日、CINEMA・TWO(東京都立川市)で行われた映画『THIS IS IT』の音響調整現場を見学してきました。その様子と、CINEMA・TWOの音響設備を簡単にレポートしようと思います。当作品のサウンドをより良くするために、シネマシティが企画した参加型イベントで、音響技術者の微細な音響調整をじかに聴くことができる貴重な機会でした。

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CINEMA・TWOの外観。ガラス張りの瀟洒な建築です。


1994年に東京都内で初めて劇場構造規格THXの認定を受け(CITY2)華々しくオープンした立川シネマシティ。特に音響へのこだわりは定評があり、そのシネマシティが独自のアプローチで2004年に造り上げた二つ目の映画館がこのCINEMA・TWOで、先般までメモリアル特集記事で紹介したシネマデプト友楽と同じく独立系デザイナーズシネコンです。ここは従来の映画館の音響構造とは全く性格が異なるオリジナルの音響システム「Kicリアルサウンド」を全5スクリーンに採用しています。

映画館の音響システムというのは世界的な基準でセオリーが決められていて、映画館が独自で音響効果を変えるということは通常は行いません。普通の映画館で変えるのは音量くらいです。CINEMA・TWOでは独自に開発された劇場構造とデジタルサウンドプロセッサーを駆使することにより、映画に合わせた調音が可能となっています。言いかえれば普通の映画館は固定された音響設定に則った上映になるのに対し(だからこそ最初の設計・性能や調整の良しあしが重要)、ここでは映画ごとに音質を調整できるシステムを用いて運用されているのです。

このようなスタイルの映画館は類例が少ないですね。通常の映画館でも物理的に行うことは可能ですが音響や映画の音に対して、造詣の深い人物がいないと逆に映画の魅力をスポイルしかねません。Kicリアルサウンドは有限会社エル・プロデュース代表取締役でありサウンド・スペース・コンポーザーの肩書きで知られる井出 祐昭氏と音響コンサルタントの増 旭氏によって開発されたからこそ実現したプロジェクトと言えるでしょう。KicのネーミングはCINEMA・TWOのアートディレクターを務めた海藤 春樹氏、井出氏、CINEMACITYの頭文字を取って名付けられています。

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右が増 旭氏、そのすぐ左が井出 祐昭氏です。




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海藤氏によってデザインされた幻想的な照明。まるで教会のキャンドルのようです。



Kicリアルサウンドって?



Kicが目指したのは映画の音を作るダビングスタジオと同等以上の環境を持つ映画館とすることです。そのために敢えて映画館の設計セオリーから離れた設計となっています。その自信の表れは各劇場の名称をa STUDIO、b STUDIOというようにスタジオと銘打っていることからもよく分かりますし、実際に映画の音を場内で作ることも可能なだけの建築音響を構築しています。

まず最新のシネコンなどと大きく異なる点は、場内環境をより生活環境に近い自然な音空間にしてあるある点です。シネコンなどでは映画に収録された音を反響させないように壁面や天井に吸音材を設置し、過多な残響を防いでいます。クラッシックホールが残響時間を長くとり豊かな響きを聴かせるのに対し、映画館では明瞭な台詞、音声を客席に届けるために強く吸音をしてあります。そのため場内に入ると耳が少しツーンとした感覚を覚えるはずです(参照File.60 場内音楽)
CINEMA・TWOでは吸音をできるだけ抑え、自然な聴感となるような音空間としています。そのほうが聴感上の居心地が良いですし、それで映画館が造れるならやってみようというチャレンジ精神があったものと推測されます。ただし、全く吸音しなければお風呂場のような反響だらけの聞き取りづらい音になってしまうので、音響シミュレーションを重ねて映画再生に適した環境になるように設計されています。

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写真のように壁面がわずかに斜めに立っています。そのかわりに通常の映画館のような吸音材を使用せず、天井に向けて音を反射させる構造を用いています。こうすることにより他の映画館に比べて圧倒的に吸音面積を減らすと同時に定在派(壁の平行面で向き合う音による波長の乱れ。音響に悪影響をもたらす)の問題も処理しています。反響がある分、シネマ用スピーカーよりもより音が遠くへ飛び微妙な音の調整も可能なMeyer Sound社のPA用パワードスピーカーを使用しています。これで反響に打ち勝ち、より繊細かつ力強い音が再生できるのです。Meyerのスピーカーは性能が非常に優れていますが高価で元来は映画用ではないため使用している映画館は国内では少数です。




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天井の拡大写真。吸音板がぎっしりと設置されています。通常の映画館はここに岩綿吸音板パネルを使います。映画館によっては薄手のグラスウールを用いているところも見受けられます。天井に音を集めて吸収しているのがミソですね。グラスウールでは高音域の吸収が強く低音域を残してしまう特性があり、中高音をきれいに出す音環境を作るのが難しく低音過多になりがちです。そのためスクリーンから離れるほど高音がこもりがちになりますが、CINEMA・TWOはセンタースピーカーを除くライトとレフトのスピーカーとサブウーファーをむきだしにしていることもあり後方まで高域減衰が少なく、観賞位置による音のバランスの崩れが少ない造りとなっています。ご存知のように通常の映画館はスクリーンの後ろ側の見えない位置にスピーカーが設置されています。

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傾いた壁、センタースピーカー以外がむきだしになっているのが分かりますね。


さて、今日はKicの解説はこのへんにしておいて音響調整現場の様子をご紹介しましょう。機会があればもう少し掘り下げてこの映画館の音響について記事を書いてみたいと思います。私が以前にCINEMA・TWOのオープン前に招待された「スニークプレビュー」の際の『リディック』の音響は衝撃的で、今までに聞いたことがないタイプの音響空間に圧倒されたものです。そのときのチューンは派手目にしてあったので通常上映とは違うデモンストレーションサウンドでしたが、今回の音響調整ではそれ以来の素晴らしい音とマイケルの魂が息づくサウンドを聴くことができました。



音響調整レポート



CINEMA・TWOにおける最初の『THIS IS IT』興行は2009年10月28日~。再上映が2009年12月19日~(再調整版で名付けてINVINCIBLE SOUND)そしてスタンディング上映。このときの上映も井出氏による調整が行われ各界から絶賛を浴びました。「THIS IS ITなら立川」という評判は瞬く間に広がり以前より映画館ファンの間でおなじみだった「音響の良さなら立川」の名を一般観客層まで知らしめたのです。以前のサウンドでも十分な音響を聴かせていただけに実に楽しみです。

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参加者の多くが女性!偶然にも友人が来ていてびっくりしました。仙台からいらっしゃった方も…。


本来は十数人の参加枠のはずが意外なほどの参加者。反響があったのでしょうね。
まず、井出氏による今回の調整の説明と、CINEMA・TWOの設計構造などについて簡便な解説がありました。井出氏によると
今回は「今まで以上にマイケルの声と愛のエネルギーを忠実に引き出す」とのこと。
これは楽しみです。もともとこの映画はそれほど音質が良いわけではなく、低音域が目立ち台詞が少し引っこんで聞こえるという映画音響的にはバランスの悪い難のある作品です。井出氏も「作品の音を元から直したいくらい」と仰っていましたが同感です。このような素材からいかにしてさらにマイケルのエネルギーを引き出すと言うのでしょう。どのような調整になるのか実に楽しみです。

解説の後は模範上映(冒頭約10分)。1回目は無調整版。2回目がインヴィンシブル・サウンドです。3回目がスタンディングバージョン(大音量)。2回目のほうが明らかに全体がフラットな音声となりノイズ感が低減、全体の各チャンネルのバランスも揃い、より聴きやすい音になっているのが分かります。また声の透明感とノイジーな帯域が抑えられよりシャープでクリアな肉声感ある音声に変化しています。まるでノイズリダクションをかけたうえで全体のバランスを理想的に合わせたような印象でした。上映をストップした後はフィルムを巻き返す時間が必要なのでその間は質疑応答時間となりました。


いよいよ調整開始


デモが終わった後、本格的に調整に入ります。今回はスタンディングライブスタイルで猛烈な音量での上映に向けての音響調整です。聴いていると1曲1曲ごとの平均値を出すような感じでわずかな調整が加わっていることが分かります。決して大きなイコライザー調整ではなく注意深く聴いて帯域が出たり引っ込んだりするのが分かる程度。その繰り返しが続きます。それは主に台詞を担当するセンタースピーカーだけではなくサラウンドスピーカーにも及んでいました。
でもやはり「声」を最重要視しているのは明白で、この声をどのように出すか腐心している様子が見受けられました。
聴いているうちに声が自然と聴こえるようになり、カドが取れてより自然な再生へと変化していきます。調整の間も我々レポーターは歌っても踊ってもOKという非常に自由な時間が与えられ、多くのファンがスタンディングで歌に合わせてノリにノっていましたね(笑)。井出氏もその様子を愉しまれていたようです。

行程としてはまず映画の前半部分で大まかな調整、休憩後の後半部分ではセンタースピーカーのみからの再生やサラウンド無し再生などでより深層部の調整をかけていきました。1回目の上映が終わった後は休憩後、作品を休みなしで上映し最終調整となりました。相当な大音量のなかで的確に音を拾って絶妙にバランスを取っていく様子はまさに「音作り」であり、計測数値上の調整ではなく井出氏ら技術者の聴感で仕上がっていく様は職人技と言えるものでした。



6時間に及ぶ調整の後


そして最終的に仕上がった音。言葉ではうまく表現できませんが凄まじい表現力であることは確かです。まずこの作品の特徴である押し出しの強い低音を出しながらも他のパートやヴォーカルを潰さない圧倒的な肉声感があって、スクリーンから飛び出してくるようなセンターチャンネル。まるで現場にいるような空気感のリアリティとマイケルの生っぽく艶のある美声が感動的です!
普通はただ音量だけを上げてしまうと高音域が目立ってくると同時に重低音域の主張が強くなってバランスが崩れ、他の音声成分をスポイルしてしまうものなのですが、調整によりこんなに多くの音が各チャンネルに割り振られていたのかと唸らされました。

パーカッションのパンチある音声も特筆です。特にこれは前のほうのシート、G列より前あたりで実感できるでしょう。弾けるパーカッションの鋭い音は胸の奥まで突き刺さるような再生です。そこにマイケルのヴォーカルと各パートの演奏が調和しているのだからたまりません。私は後方のM列(個人的に好きな観賞列)で聴いていましたがパーカッションのキレとベース音の量感あふれる再現はまさにコンサート会場にいるような臨場感です。

また今まで映画館では聞いたこともないほどの大音量のため身体の内側まで音が叩きこまれてきます。それにも関わらず場内全体を充満する重低音にビクともしない床や壁面の剛性の強さは、さすがはスタジオクオリティを標榜するだけの建築構造になっていることを再確認させてくれました。サラウンドもフロントスピーカーに使えるほどのパワーがあるモデルなのでしっかりと音が客席まで届いてきて、5.1chをフルに使って音を割り振った制作者の苦労がしのばれました(リハーサル音源なので雑ではありますが)。リアサラウンドにもギターの音、バックコーラスなどがしっかり入っているんですよね。大音量でもそれが確実に伝わってくる、凄いことです。

とにもかくにも激烈な音量ながらサラウンドも含めて各パートがしっかりと自己主張し、本当にロンドン公演に参加したかのようなリアリティあるサウンドで降参です(笑)。あれほどの大音量でありながらソースの情報量を超えるかのようなマイケルのはっきりと明確でパワフルな声の再生には驚きを隠せません。ちょっと私には音が大きすぎるかなという感じはありましたので観賞される方は大音量を覚悟の上で行かれることをお勧めします。元々のミックスではスクリーンより遠く聴こえ、いまひとつパワーのなかったマイケルのヴォーカルが、その場に本人がいるようなサウンドで体感できたことはまさに「リアルサウンド」の名に恥じぬものであったと思います。



その他所感



逆に気になったこともあえてここに。まず前半映写機にシャッター流れが見受けられた点です、普通のお客様ではまず気づかないレベルではありますが映写機のシャッターとフィルムの給装タイミングのズレにより映像がわずかに下方向に流れて映写されていました。ただこれは微細なもので大きな問題はないと思います。映写技師でもない限り気にならないでしょう。あとライブスタイル上映だから仕方ないのですがもう少しLFE(重低音)のレスポンスが下がったほうが個人的には好きですね。下げてあるのは分かるのですが本当の公演よりも重低音は強いのではないか?と感じるほどでした。それでもマイケルの声が演奏が胸に届いてくるのが今回の調整の素晴らしい点であると思います。

この映画を見た誰もが思う感想である「実際の公演を見てみたかった」。
それは永遠に叶いませんが、少なくともこの
CINEMA・TWOのライブスタイル上映は世界で最もその世界観を忠実に再現している上映環境の1つであると確信します。サウンドをくのではなく、“体験する映画”となって生まれ変わっています。爆音や重低音の映画再生が一部の映画ファンの間で支持されている昨今、CINEMA・TWOの今回のサウンドを聴いてしまうとこれまで爆音や重低音と言われていたものがいったい何だったのか…と思わずはいられません。

独創的な建築音響構造と音響設備はもちろんのこと、スタッフの熱意だけでなく井出氏と増氏のゴールデンコンビだけが生み出せる世界観と言えるでしょう。元々Kicはそのライブ感ある音場のため音楽映画、とくにロック映画などには相性が良い傾向があるだけにまさにピタっとはまったと思います。最初に見たとき自分が「音の悪い映画だな」と感じていた『THIS IS IT』にこれだけのエネルギーが込められていてそれを映画館で引き出した事実を思うと、THX(世界基準の映画館構造規格、パラメータの変更はできない)を支持している自分も「映画ごとの音響調整」というものに大変興味を持ちました。

井出氏と言えば個人的には場の空気や世界観を重視しつつ繊細で自然な音空間を生み出す印象がある方だけに、今回ほどの大音量(繰り返しになりますがそれほど凄いボリュームなのです。途中で大音量がさらに上がりましたから!)になったのは意外でした。劇場がビクともしない剛性なので音圧だけで身体が揺れ、鼓動が速まる未体験の音になっています。参加者の熱気や熱意に井出氏自身が突き動かされたのではないか、そういう印象を持ちました。参加者全員の一体感によって作り出された音と言って良いでしょう。最後は拍手喝さいで調整会は終了しました。井出氏の「マイケルはここに来ていると思う」という言葉が鮮烈に思い出されます。

CINEMA・TWOでの再々興行は6月19日より。名付けて「THE EXPERIENCE」。上記のライブスタイル上映の日程は以下。

2010年6月19日(土) 20:00~ 予約/窓口販売 6月17日(木)
2010年6月25日(金) 20:00~ 予約/窓口販売 6月22日(火)
2010年6月26日(土) 20:00~ 予約/窓口販売 6月24日(木)

「爆音はちょっと…」という向きの方は通常上映でも大変なクオリティです。ファンならずともぜひ足を運んでみてください。そして体感してください。志半ばで世を去ったマイケルが目指していたものが少なからず感じ取れると思います。マイケルがこの上映を見たらきっと“I LOVE YOU”と言うのではないでしょうか…。ここまでCINEMA・TWOが本気の音を出すことは滅多にないのでそういう意味でも貴重な体験でした。

そして劇場のスタッフが自分たちの劇場を誇りに思い、好きなことに一生懸命になっている姿に感銘を受けました。好きだからこそ、誇れるからこそこのような挑戦と音響調整レポートというチャンスを与えてくださったのだと思います。最後になりましたが今回このような機会を与えてくださったシネマシティのスタッフの皆様と関係各位に心から感謝の意を表します。ありがとうございます。

For the fans...

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2009年11月15日 (日)

File.113 試写流出

先日発行された業界紙で、映画館の業務テスト試写における「情報流出」についての記事が掲載されました。業務テスト試写については過去記事も合わせてご覧ください。

映画館では上映用プリントに不具合や問題がないかをチェックするために、作品の公開日に先立って映写スタッフの手でテスト試写を行います。テスト試写はプリントの品質チェックのほかに上映機材の動作チェック、編集作業(プリントを上映できる状態にする作業のこと)に問題がないかなどを念入りに確認するのが目的で、この業務は基本的に映写スタッフが行うことが前提ですが映画館によっては映写以外のスタッフにも参加を許しているところもあります。自館で映画を見ることも勉強のひとつであり、私自身もこれについては問題はないと考えています。

先述の記事にある「情報流出」というのは、このテスト試写で見た作品の内容をインターネットで公開している者がいて、劇場スタッフの特権だとなかば自慢するように書かれていると指摘しています。

個人的な結論は、テスト試写はあくまで品質管理のために行っている業務であり、作品の内容を他言することを推奨しているわけでは決してありません。よって公開前に職務上の権限でもって観賞した作品の内容を不特定多数に公表することは好ましいとは思いません。

テスト試写における作品内容流出の是非については賛否両論あると思います。自館の映画=商品を宣伝する行為であればOKと考える方もいらっしゃるかもしれません。一般試写会やプレス・映画評論家向けの試写会については宣伝することを目的に開催されるので、観賞者が内容に言及するのは問題ないでしょう。しかし映画館におけるテスト試写はあくまで「業務試写」であって、内容を見るのが目的ではないのです。すでに一般試写会が大々的に行われている作品ならばいざしらず試写会が行われていない作品でも同様な事例が起きていると記事には書かれています。それを特権と称して公表するのはモラル面で歓迎されることとは思えません。

映画が完成して映画館にプリントが納品されるまでに、数多くのスタッフや企業が関わっています。映画館はそのなかで最後に作品にタッチするところです。作品の規模や話題性にもよりますが、制作スタッフや関係者は作品の内容については公開前に外部には公表しないのが常識です。制作スタッフではない、たとえば洋画の字幕翻訳家や宣伝会社、映画現像所のスタッフであっても内容や作業内容について他言することはありません。彼らは映画館のスタッフとは比較にならないほど早い時期に作品を見ていますが、それは業務上で必要なためで他言する理由にはならないのです。話題作を担当するときは内容に関する一切の情報に関しての守秘義務が受託条件になる作品もあります。

もし公開前の作品内容が流出した場合は会社にとっての信用問題に直結します。映画制作スタッフや関連企業の契約は互いの信頼関係によって成り立っているところが大きく、ひとたび信頼を損なうと回復させるのは容易ではありません。作業中の作品の情報を第三者に漏らすことはたとえスタッフ個人の出来心であっても結果的に会社全体の信用力低下として打撃を与えます。映画界に限らず社会とはこのような信頼でつながっていることは言うまでもないことです。
映画館のアルバイトといえども映画業界に関わっており、数多くのスタッフが心血を注いできた作品をお客様にお届けする大切なお仕事です。業務試写で見た作品を特権と称して語ることに良い印象は持てません。

ひどい場合になるとテスト試写から映像や音声までもが流出した事例も過去にあります。違法行為であって許されることではありません。公開前の情報流出はこのような行動へエスカレートしていく原因になることも危惧されます。悪気がない行為でも信用低下はもちろんのこと権利者の権利を侵害する恐れがあることを念頭に置いて業務に当たる必要はあると思います。

近年は配給会社も劇場内での映画の撮影・録音を警戒して様々な手段を講じるようになりました。日本でも大ヒットしたハリウッドの某話題作は最後巻(映画のプリントはいくつかの巻に分かれている)だけ公開日間際に別納する方法が取られました。言うまでもなくテスト試写からの内容流出を懸念しての処置です。この場合はすべての編集を終えてからでないと正確な試写ができないためにある程度の抑止効果はある半面で、公開直前の編集や試写業務は映写スタッフへの負担を強います。一部の心ないスタッフの行いによって現場に負担がかかるのは決して望ましい状況とは言えませんし、本編前に盗撮抑止キャンペーンフィルムを上映しなければならないなどお客さまに対しても心苦しい結果を生み出しています。

そのためポジティブな内容であっても、テスト試写に参加したスタッフは業界関係者として未公開新作の中身に大々的に触れることは避けるべきだと考えます。本当に集中して品質チェックをしていると、内容まであまり気が回らないものです。テスト試写が本来あるべき役割を果たせるように、参加するスタッフも真剣に作品に向き合ってほしいと願います。

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2008年5月13日 (火)

File.110 爆音映画祭

「映画は映画館で見るのが好き。それも大音響で」という方が増えています。そんな方のために今日は吉祥寺バウスシアター(東京都武蔵野市)で開催される爆音映画祭についてお話しようと思います。


音響技術の向上と大音量


録音技術と上映音響設備の向上により映画館の上映音量はこの数年で確実に大きくなりました。大きな要因として音響機材(スピーカーやパワーアンプ等)の高能率化と、音声フォーマットのデジタル化が挙げられます。1992年に劇場用音響システムとして発表されたドルビー・デジタルの登場で映画の音は録音から再生までをデジタル信号で扱えるようになりました。従来のアナログ音声より幅広いダイナミックレンジ(最小信号から最大信号のふり幅のこと)とCD並みの音声品質を活かし、迫力のある音量での上映を多くの映画館で行えるようになったのです。

大きな音量と言っても通常興行においては当然ながら常識的な範囲があります。映画館は老若男女問わず様々なお客様が来場される公共施設ですから映写担当の独断で「爆音にしてやる!」なんてことはできません。音量の感じ方は個人差が大きいために上映の際は音量に注意を払って決定する必要があるんですね。映写係も業務試写では音声に意識を集中させて最適な音量を常に意識する必要があります。作品の客層や性質にもよりますがお客様から苦情を頂戴するような大音量と、表現意図を無視した設定は基本的にNGというわけです。

映画の音は映画館において規定のレベルで再生されることを前提として制作されていて、作品や劇場の特性に合わせた適正音量が存在します。この規定レベルに沿った音量が最適な音量となり、誤差が大きいほど音の再現性が損なわれていきます。適正音量がどのくらいのレベルかと言うのは音響設備を調整する際の試験音を聞くことなどで養うことが可能ですが、ほとんどの映画館は映写係の感じ方に委ねられていることが多いようです。映画の規定音量については別の機会に言及しようと思います。


爆音問題


お話しを元に戻します。
では規定レベルをはるかに上回る、いわゆる爆音で上映を行うとどのようなことが起きるでしょうか…?

ええ、様々な問題が発生すると思います。
まずお客様から苦情を頂きます。規定レベルでも音が大きいと感じられるお客様はいらっしゃるので爆音になれば結果は目に見えています。設備面でもスピーカーの破損につながったり、隣接スクリーンや近隣への騒音を招く恐れがあります。作品も普通の台詞が怒鳴り声のように大きくなって不自然に聴こえるでしょう。音が歪んだり割れたりして適正な再生が難しくなり、音の正確性も損なわれてしまいます。基本的に爆音での上映はそれに耐えられるだけの音響設備・構造設計と観客の許容がなければ難しいですね。

こういった様々な理由により映画館で爆音を体験する機会はありません。大音量が好きな方には物足りないと思うこともあるかもしれませんが、映画の音作りが爆音を想定していない以上は仕方がありません。


そこで爆音映画祭!


そこで注目したいのが吉祥寺バウスシアターで2008年5月17(土)~24日(土)にわたって開催される爆音映画祭です。2004年に『クンドゥン』(1997年)上映で初披露されて以来コアなファンを持つ爆音上映がついに爆音映画祭として終日プログラムで登場します。このような企画上映として枠を設けることができれば思う存分に爆音を体感することができますね。

吉祥寺バウスシアターは芝居小屋やライブ会場として使用されてきた名残で音響調整ミキサー機材を保有しており、上映スピーカーもシネマ用とは異なるCOMMUNITY社製PA用スピーカーが使われます(ライトおよびレフトスピーカー)。
爆音というのは単に音量を上げれば実現できるものではなく、熟練者による調整と音作りを経てはじめて実現できるもの。吉祥寺バウスシアターの爆音上映では毎回音響調整作業を行い、手間をかけて音を作っているそうです。前述の通り爆音上映を行うための環境を整えているからこそできる芸当と言えるでしょう。

具体的にはL・RチャンネルにPAスピーカーを4発×2とスクリーン裏のCチャンネル4発をバイアンプ接続でドライブ。映画再生と言うよりはロックコンサートに対応できるパワフルな布陣です。音声信号は映写機から後のBチェーンにミキサーとブースターをかまして細部まで音作りを行い観客席まで届けられます。単純に音量を上げるだけの爆音騒音上映とは違い、上映者の解釈・意図を交えた音響設計にも注目です。

一方で映画館の音響設計や調整は、様々な映画を無難に正確に再生することを目的にチューニングされ変更することはありません。映画の音を録音するダビングステージと映画館の音環境を整合させることで正確な再生が行えるように設計されるため、映画に合わせて調整することはあまりないのです。
映画館で多様な再生に対応する例としてはユナイテッド・シネマ豊洲のAFC、CINEMA TWOのKicリアルサウンド、ベッセルおおちのDCS、MOVIXの一部サイトにある音響調整システムなどが挙げられます。日比谷みゆき座でイベント的に行われたオペラシアター・リアルサウンドもイコライザー調整で音場を創成する試みとして良い例です。CINEMA TWOは映画館としては異色のPA寄りなセッティングが見受けられます。

映画館で普段上映されている音量はやや大きめな場合で平均85dB程度。生活環境で例えると走行中の電車・バス車内に相当します。爆音映画祭ではこのレベルのおよそ4倍相当、自動車の警笛や鉄道のガード直下並かそれ以上の大音量で上映が行われます。このような大音量を映画館で体験することはできません。前述の通り映画館の音響機材は世界的な統一基準でセッティングされていることが多く、音の調整をしたりチャンネルごとの音量を変えることは基本的に行いません。THXの映画館では設定を変えて上映するのはNGとなります。

爆音映画祭は通常の映画鑑賞とはまったく違う鑑賞方法を提示する意欲的な試みだと思います。映画制作者が作った音に爆音という新たなエレメントを吹き込み、スタッフの解釈を通した爆音に身を委ねるという鑑賞方法はひとつの上映スタイルとして画期的な形態ではないでしょうか。溢れ出す大音量とスクリーンから今まで見えてこなかったもの、聞こえなかった音が発見できるような気がします。

注目の作品は22日(木)13:30~『ロスト・ハイウェイ』と16:10~『プライベート・ライアン』。『ロスト・ハイウェイ』は鬼才デヴィッド・リンチ監督が誘う不可解で不条理なストーリーが秀逸で冒頭からデヴィッド・ボウイの楽曲で疾走する怪作。リンチ監督の作品は録音・ミキシング共に素晴らしく、5・1chをこれだけ効果的に使いこなせる監督は少ないと思います。電話のベルやフレッド家の低音ノイズがどう再現されるか聴きどころ。フレッドの変身シーンの多重ミックス音とマリリン・マンソンのヴォーカルにも注目でしょうか。
『プライベート・ライアン』は説明不要でしょう。アカデミー賞音響賞と音響編集賞をダブル受賞したマルチチャンネルの見本市のような派手音響が味わえます。爆音でオマハビーチの狂気が再現されると思うとゾクゾクします。
戦闘シーンの壮絶なサウンドばかり注目される映画ですが、爆音上映で戦場の静寂や夜間シーンとエディット・ピアフがどのように表現されるか楽しみですね。この2作品は私もぜひ鑑賞したいと思っております。

爆音映画祭は映画の新たな楽しみ方を提示してくれるきっかけになるかもしれません。今後も映画祭が定着して開催されるように、成功をお祈りしたいと思います。

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2008年3月20日 (木)

File.107 WMC東岸和田メモリアル 3

ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田閉館特集の三回目です。
東京と大阪間の日帰り遠征行程のため、1作品だけ見てとんぼ返りすることになりました。WMC東岸和田のメインスクリーンである5番THXスクリーン(定員476名)の様子をご紹介しようと思います。




WMC東岸和田メモリアル Vol.3




5番スクリーンの入口
コリドールの最奥部にある5番スクリーンはWMC東岸和田で最大の定員数476名を有するメインスクリーンです。出入口はこの後方扉のみ(非常口除く)で4枚扉の広い間口を有しています。
二重扉や回折導線構造にしない代わりに出入口付近にスペースを設け、側壁開口で場内への光の侵入を防いでいる細かな配慮に感心します。これはミニシアターや古い映画館で見かける形態でシネコンでは珍しいです。前方からスロープ形式で入退場するシネコンでは考えらない構造です。




THX認定を表すサインパネル
ここは日本で3番目に認定を受けた歴史あるスクリーンです。入口の電光タイプのシネマプラークがTHX認定劇場であることを誇らしげに主張しています。

WMC東岸和田が認定された当時のTHXが、ルーカス・フィルムの一部門「LUCASFILM LTD,THX Division」であったことが読み取れますね。現在のTHXはルーカス・フィルムからは分離して資本関係を解消しているために、現行のシネマプラークにはLUCASFILMの文言は入りません。残念なことにこれが国内興行会社のTHX離れの決定打となったのです。

上側にある音響フォーマット表示はWMCオリジナルのサービスです。作品ごとの上映フォーマットを入口で明示してあり音響マニアには嬉しいですね。この表示はドルビー・デジタル(SRD)を表しています。





最後列から見た劇場内
最初にこの劇場を訪れたときの驚きは今も忘れられません。完全なスタジアム形式を用いて大きな劇場でも見やすい視野を確保できることを見事に証明し、欧米サイズのゆったりとしたシートに腰を沈めてTHXを体感できたのです。
設計技術の進歩した現在見ると特徴のある場内ではありませんが、陳腐さを感じるところがないのは素晴らしいと思います。15年前にこれほどの劇場を造り上げた設計・施工各位の努力に敬意を表したいと思います。1993年当時はこんな高規格の劇場は他にはなかったのです。映画館に新時代の到来を告げた名箱と言えるでしょう。





スクリーン前からの眺め
476席の定員のわりにはコンパクトな印象を受けます。天井高や左右梁の構造など視覚的にそう見えるようです。構造はWMC海老名7番スクリーンを一回り小さくした印象で、さすがに同時期オープンだけあってよく似ています。海老名は劇場中央に通路がありド真ん中には座れないのですが、こちらは左右に通路を4本通して中央通路を排しています。映写窓は小さな窓が2ヶ所開口し天井高の限界の位置にありますね。





劇場中間部から後方を望む
フィゲラス社製のシートがブロックごとに角度をつけて配置されています。座席は遠くスペインから輸入されました。大きめな欧米サイズでドリンクホルダーを装備した座席は今では当たり前となっていますが、当時は驚きをもって迎えられました。
画像では分かりにくいかもしれませんが、客席に急角度の段差が設けられています。天井高とスクリーン位置を勘案したうえでの角度と思われますが、スクリーンの位置が低めなためこれでもやや足りないくらいです。そのため映写窓の設置位置もぎりぎりまで高い位置に設計されています。縦方向を圧縮したような形状なので少し窮屈にも見えますね。





当時は観客の度肝を抜くサイズでした
湾曲スクリーンを採用し、大画面の魅力を余すところなく伝えてきてくれました。スクリーンサイズは6.40m×14.94m。開館当時は定員700~1,000人超の大劇場で導入される常識外れの超特大幕でした。実寸は定員574名の海老名7番よりは多少小さめですが、定員数で考えれば東岸和田のほうが割合として大きなサイズを入れていることになります。
スクリーン周りのカーテンはくたびれた様子で近くで見ると痛々しかったです。とくに下部一文字幕のほころびは激しいものでした。

注目なのはオレンジ色の幕。これ、電動式スクリーンカーテンです。シネコンでスクリーンカーテンを備えているところは非常に数少ないので貴重な存在でした。残念ながら今回は開閉することもなくスクリーンにはカラースライドが投影されています。デジタルサウンド黎明期にdtsを備えた最先端の映画館でした。メインスクリーンでありながらステージはありません。





中央通路付近
劇場の中央部に通路があり、2つのブロックに分断されるような構造になっています。大劇場でよく見る造りです。





側壁構造
WMC東岸和田の劇場は側壁仕上をグラスウール充填+ドレープカーテン包みで全スクリーンを施工しています。最近のシネコンはWMCも含めて、グラスウール化粧板ですっきりと覆うことが多いです。東岸和田で使われているようなドレープカーテンは吸音面積を増加させるのと同時に壁面に視覚的変化を付けられるのが利点です。海外のシネコンでよく見かけますね。

腰壁は青色の壁紙が使われ吸音設備はありません。ここに吸音構造を設けないのは汚れや破損に対する耐性を持たせると同時に、
あえて客席側にアコースティック(残響)を反射させて音響効果を高める目的があります。映画館の設計セオリーで重要な役割を持つ吸音設計、しかし良い音響のためには吸音するだけではダメなんです。





特徴的な構造を備えた映写室外壁
ドレープカーテン側壁と共に特徴的だったのがこのリア壁。かまぼこ状の吸音拡散体をずらりと並べて、その間にサラウンドスピーカーJBL8330が10台も設置されていて壮観です。
映写室外壁は劇場の音響性能を左右する非常に重要な場所。シネプレックスのHDCSや東宝関西興行のTHASなどでリア壁面に特殊吸音材を採用したり、新宿バルト9のメインスクリーンが東岸和田と同様な造りになっているなど、さまざまな工夫を凝らすことで品質が変化する部分です。

THX認定をクリアするにはリア壁面を確実に吸音・遮音することが条件で、設計が悪いと台詞にエコーがかかったりフロントの音声に濁りが生じるといった悪影響が顕著に出てきます。認定基準のひとつである暗騒音NC-30をクリアするために遮音設計も重要ですね。

梁の部分は空調機構のようで株式会社IMAGICAの試写室、立川シネマシティのCITY2 THXを連想させます。梁は吸音処理をしておらず音声を反響させる役割を持っているように感じられました。実際にこれら壁面の効果を鑑賞の際に感じることができたので、連載最終回で少し触れてみようと思います。





劇場最後列からの俯瞰
当サイトを愛読してくださっている方には見覚えのある雰囲気かもしれません。そう、品川と軽井沢のIMAXシアターによく似ていますよね。 それだけ客席が急角度で設計されていることがこの画像だとよく分かります。スクリーンを限界まで高く設置して客席の段差を多めにとることにより前の人の頭部が画面に被らないように配慮されているのですが、それでもなお角度不足は否めません。この劇場最大の欠点と言えます。

また幕間の場内照度がたいへん暗いのが気になりました。画像を見ていただくと分かる通り後方のライトしか点灯していないのです。実際の場内の明るさはこれら全ての画像よりも格段に暗くてスクリーン前などは真っ暗でピントを合わせることができず、レンズの距離目盛を使用したほどです。
WMC東岸和田場内は画像ほど明るくなく、撮影時に露出補正をかけて+3EV相当明るめに撮影していることをご承知おきください。





再び入口前
最後列の後ろ側にはこのようなスペースが用意されています。上部のテラス部分が映写室です。冒頭でも触れましたがこのスペースのおかげで途中入場の際も光が差し込むことがなく、回折構造やスロープも不要で合理的です。スロープ構造でありながら光漏れのある劇場が多いなかで評価できる設計です。ミニシアターや古い劇場の一部にこのようなスペースが散見されますがシネコンでは珍しく、またこれだけの広さは他では見たことがありません。
天井の高さをさらに取れて映写室を後方にセットバックできていれば、ここも客席が設置されていたことでしょう。フリースペースにしたのは正解だと思います。





客席はまばら…
サンクスキャンペーン1,000興行でしたが動員は多くなく空席が目立っていました。
こうして振り返ってみると現行WMCの緑色×黄色の内装よりもシックで大人っぽい色彩設計になっていますね。壁面の橙色の間接照明も消灯していて残念な限りです。
このような構造はフラットな壁面に変化をつけ音響へ効果的に作用します。設計時にそこまで考えてあったかは分かりませんが、この劇場はTHXとしては豊かな残響成分を持つ箱で独特の心地よさがあったことは事実です。目立った個性がない半面で豊かな響きが空間を満たすところがこの5番THXの持ち味だったと思います。

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2007年12月 1日 (土)

File.102 予告と音響

管理人多忙のため記事更新が滞っております。楽しみにしていただいている方にはご迷惑をおかけいたしますが何卒ご容赦ください。気長にお待ちいただきますようお願い申し上げます。


さて、今日は久しぶりに音響のお話をしようと思います。以前にご紹介した映画館設備マニアの記事の続きです。


ドルビー・デジタルの登場

映画館の音響設備の拡充に伴って、映画の音響にこだわる方が増えているのは前の記事でお話した通り。その火付け役となったのは劇場用デジタル音響システムのドルビー・デジタル(SRD)の登場に他なりません。
それまでもドルビー・ステレオ(Dolby A-Type)ドルビー・スペクトラル・レコーディング(Dolby SR)などの音響システムで定評のあったドルビー・ラボラトリーズが開発したこの方式によって、映画の音は従来のアナログ光学録音と比較して、音楽CD相当まで向上したと言われています。


映画館ではおなじみ、ドルビーのダブルDマーク

ドルビー・デジタルの発表は1992年。翌年に最初の国内シネコンであるワーナー・マイカル・シネマズ海老名が映画館では日本初となるTHXシアターにドルビー・デジタル、デジタル・シアター・システム(dts)、ソニー・ダイナミック・デジタル・サウンド(SDDS)を引っさげて華々しくデビューしました。

WMC海老名7番THXスクリーンでデジタル音響システムを体感し映画音響の世界に引きずり込まれていった人は数知れず・・・、管理人もその一人です。『プライベート・ライアン』の凄絶なサウンド、『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』のポッドレースシークエンスの360度サラウンドは、マニアの間では語り草になっていますね。その後はデジタル音響システムを標準装備したシネコンが当たり前となり、多くの人が気軽に高音質を楽しめるようになりました。

ドルビー・デジタルの音声方式、特性、性能など小難しい話はまたの機会とさせていただき、今日は関連して予告編の音声と映画館の音響性能について簡単に触れてみようと思います。


マニアと映画館の音響

映画館設備マニアは映画本編のサウンドを聴いて作品と映画館の音質・音響を判断するのが通常です。デジタル音響が当たり前になった現在ではアナログ方式(ドルビーSR、dtsステレオ等)には興味のない方も多いようで、デジタル録音の作品のほうが一般的には音響評価の対象となりやすい印象を受けます。

しかし本編での評価には落とし穴があります。映画の本編でサウンドを評価する場合、複数回同じ作品を鑑賞しないと比較評価ができないので、音響の優劣が作品の録音品質によるものなのか、劇場性能によるものなのかが判別しにくいのです。
例で言うなら
上質の音響性能の映画館で録音品質の良くない映画を鑑賞した際に、音の悪い原因が映画館にあると誤った評価をしてしまうことがあるんですね。当然、この逆のパターンもあり得ます。

初めて訪れた映画館で初めて見る作品だと、音響が悪いなと感じた場合に作品と劇場のどちらに原因が多くあるのかを分析するのは至難の業です。現在の映画館の多くは映画館の基本的な音響設計に則って建築されていますが、実際に再生される音は内装材の種類や劇場の形状のほか音響設備のチューニング等の影響で実に様々です。つまりは同じ映画でも映画館によって音響や聴こえ方が異なってくるのです。

音響の専門家でもない限りは、これらの微妙な差を本編の鑑賞のみで評価分析することは大変難しいように思います。マニアが各個人の嗜好を物差しとして評価するぶんにはあまり影響はありませんが、純粋に映画館の音響性能を客観的に推し量りたい場合には厄介な問題です。


予告は音響性能の物差し

では作品の録音の影響をなるべく受けずに映画館の音を判断する簡便な方法はあるのでしょうか。おすすめなのが敢えて本編は音響評価の参考にとどめておいて、予告編で映画館を評価する方法です。

以前はアナログ録音が多かった予告編も現在はデジタル録音が主流となり、シネコンで上映される予告編のほとんどがドルビー・デジタルで記録されています。デジタル音声はアナログ音声で再生することもでき、予告編をアナログとデジタルのどちらで上映するかは映画館の判断によりますが、デジタル録音のものはデジタル再生されることが多いです(予告はアナログで上映する方針の映画館もあるようです)。
予告編のデジタル音響化によって、本編に勝るとも劣らない高音質のものも珍しくなくなりました。最近だと『トランスフォーマー』の予告編が重低音を効かせた迫力あるものになっていましたね。

予告編での音響評価をおすすめする理由は、初めて訪れた映画館でもその場で比較評価ができるからです。予告は作品のジャンルや観客のメインターゲット層に合わせて映画館がチョイスして上映します。本編前の予告編は様々な配給会社の作品がランダムに組み合わされているのです。

予告編といえども作品が異なれば当然音作りも録音も全く違うのは本編と同じ。そのような違う条件のものが立て続けに上映されるので、作品による録音品質のばらつきをなかば排除して映画館の特性判断に集中することができるのです。
今までの経験では予告編で映画館音響を評価しているマニアの方はあまりいらっしゃいませんが、初めて訪れた映画館でも客観的に判断しやすい方法なので個人的におすすめしています。


チェックポイントは?

音響の判断基準は個人差があるのでいわゆる「正解」はないと思いますが、この方法ならではの判断基準として「予告編ごとの録音品質・個性・特性を正確に再生できる再現力」のチェックが挙げられます。
モニター力の優れた映画館(映画の録音品質をデフォルメせずにさらけ出せる、座席位置による音質の差が少ない、音の情報量や解像力が高い、微小な音も埋もれずに描き分け聴き取れるなど)だとそれぞれの予告編が全く違う音に聴こえ、予告編が変わるごとにその違いが新鮮に感じられるのです。

映画館の設備が向上した現在でもこのような聴こえ方をする映画館は非常に少なく、ごく限られた映画館でのみ体感できるように感じます。多くの映画館では予告ごとの音響の差異はあまり感じられないように思いますし、これを意識せずに漠然と聴いている方が多いと思うのですがいかがでしょうか?


予告を描き分ける映画館は数少ない

予告編の音を描き分けることは、ソース(音信号)の個性を自然に引き出しているとも言えます。音響設備のメンテナンスと調整、基本となる音響性能や機材性能が良くなければ実現できません。一部の試写室などはこの性能が非常に優れており、ちょっとしたノイズやアラまではっきりと再生されてしまいます。これが実感できる箱は予告編の音を聴いただけでもひとあじ違いますから本編の音も有意義にチェックできますね。

残念なことに予告編の音質差がはっきりと分かるような映画館は多くありません。世界的な劇場規格のTHX認定館でも少数です。なので予告編からひとあじ違うと感じられる映画館は注目する価値はあるでしょう。
ひとあじというのは重低音が凄いとかサラウンド感があるとかでは決してなく、前述のようにソースの再現力と正確性に優れていることを指しています。迫力ある重低音や強いサラウンド感など特定の特性が際立っている映画館は、経験上概して正確性は高くないことが多いと個人的に思います。

いずれにしても映画館は映画を見るところなので音を楽しみつつも、やはり映画を心から楽しみたいもの。音ばかりに集中して作品は上の空にならないように気をつけたいですね。

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2007年11月 9日 (金)

File.101 映画は一期一会

映写のお仕事は、観客に映画をよりよい状態で提供すること。今までにも何度か書いきたように映写業務の基本理念です。
実現するには映写技術の習得や経験が不可欠です。現在は多くの映写機がオートマチック化されて映写技師にかかる負担は少なくなり、不燃性フィルムの開発で火災の危険性も激減して誰でも少しの研修を行えば映写ができるまで簡便化されました。
以前は手作業で行っていたことが自動化されたことで映写技師にかかる負担は減り、ひいてはシネコンのような大型の複合型映画館を少人数のスタッフで運営することを可能としました。

業務内容が簡便化されたとはいえ、映写のお仕事には今も専門的な知識や手先の作業が生きていることも事実です。現在劇場公開されている映画のほとんどは35mmフィルムを使用した上映で、これは数十年来変わることなく続いています。フィルムを使用しないデジタル映写やビデオ上映も徐々に増えてはいるものの、映画の上映で35mmフィルムが圧倒的なシェアを誇っているのはデジタル化が著しい写真界とは対照的ですね。

ご存知の通りフィルムはとてもデリケートなもの、これは映画のフィルムも同じで映画上映プリントを扱う際には細心の注意が必要です。ちょっとしたダメージでも取り返しのつかない結果になりかねません。
いくら映写が自動化されたとはいえ、デリケートなフィルムやデジタル映写機のコンピュータを扱うのに神経を使うことは今も昔も変わることはないのです。映写は映写機という精密機器と、扱いに注意が必要な映画フィルムとの関わり合いで成り立っており、
時代は移り変わっても映写担当に常に緊張を強いる仕事です。

映写の仕事に慣れるまでは緊張とプレッシャーが重くのしかかり、上映を開始するのがやっと…という状態が続きます。無事に上映が終わるとようやく緊張から解放されて思わずほっとします(参照 File.96 はじめての映写)。経験を重ねるにつれて最初のような過度な緊張はほぐれ、自分のやり方やペースで仕事をできるようになってくれば一人立ちといえるでしょう。

こう書いていると映写はとても難しくて面倒な仕事なんだなとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、実は映画を最初から終わりまで正常に映写すること自体は難しいことではなく、一人立ちした映写技師であれば全能力の10%もあれば問題なくできます。現に今は多くの映画館で短時間の研修だけできちんと業務を遂行されている方が大勢いらっしゃいます。

能力の残り90%は経験とプロ意識がモノを言う世界。品質の向上をはじめ、映写中の異常発見やトラブルの事前回避といった危機管理意識と、それに対処する能力と判断力の育成のほうが、ただ映写をするよりもはるかに難しいのです。
映写中の異常を発見するには、正常時とのわずかな違いでも見逃さない注意力が求められます。上映機器の挙動や映像や音響の五感でのチェック、スクリーンの隅々まで目視で確認するといった研修だけでは身につかない、感覚的な判断力と経験を必要とする領域です。これは
普段から真剣に映写業務に向き合い、冒頭にも挙げたよりよい映写を心がけていないと身につくことはありません。

どれだけ入念に作業をしても完全に映写事故を防ぐことはできませんが、未然に事故を防ぎ品質を向上させることが映写技師の腕の見せ所でもあり役割なのです。これを放棄すれば映写技師の存在は不要になることでしょう。

そして忘れてはならないことは、お客様は映画を楽しみにして映画館まで足を運ぶということです。テレビ放映やレンタルビデオ店ではなくわざわざ映画館にやってくるのは、それだけの理由があるはずです。映画館だからこそのものが…。
その期待に応える、応えたいと思うことが映写技師にとっては大切なことなのではないかと管理人は考えています。

「映画を楽しみに映画館に行く」
この動機を映写技師はいつも心に留めておければ良いと思います。映画『ニュー・シネマ・パラダイス』で映写技師アルフレードの台詞に

「しかたなく同じ映画を100回も見る。休みは聖なる金曜日しかない、いつも独りぼっちで辛い仕事だ。」というのがあります。

非常に的を得ていてドキッとさせられます。確かに映写技師にしてみれば同じ映画を毎日かける繰り返しなのですが、それを鑑賞するお客様は毎回違う人たち。みなさん映画を楽しみに心待ちにしてやってきています。
映写技師が100回見ている映画でも(実際には見ている暇はありませんが)、お客様にとっては
一度きりしかない作品とのファースト・コンタクト、言ってみれば映画との一期一会。その出会いの時間を心ゆくまで楽しんでほしいから、もっと良い品質で見て頂きたいと努力するから映写技師の仕事は楽しいのです。

アルフレードはこう続けます。
「客席が満席になってお客が楽しんでいると自分も楽しくなる。人が笑うのが嬉しい。自分が笑わせている気がする」
この台詞には共感を覚えます。映写冥利につきる感情を的確に表現した名台詞ではないでしょうか。映写の仕事が好きでなければ言えない台詞なのかもしれません。お客様を楽しませたいからこそ映写の仕事には力が入るしそれだけに責任も重いのですが、アルフレードが言ったように人を幸せにするのが映写の仕事であるならば、本当に映写が好きな人にこの仕事を続けてほしいと願います。実際に好きだから映写をやっている人が多いですしね。それでなおお客様を楽しませたいという理由で向上心を持って映写ができる人には天職と言えるでしょう。

毎回同じ映画を上映しても、映写窓の先にいる人たちはその映画との一期一会の出会いを楽しみにしている。その人たちが映画館にいる時間を満喫し、映画を楽しんでくれることが映写技師の喜びなんですね。
観客と映画の一期一会を提供する映写技師の仕事、今後も映写の裏側を少しづつご紹介していけたらと思います。ちなみに現代の映写技師は聖なる金曜日ももちろん働いていますよ!

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2007年10月 2日 (火)

File.99 応答セヨ!

1993年の日本初登場以来、今やすっかりと定着したシネマコンプレックスの映画館(参照 File.11 黒船~シネコンの出航)。CINEMA COMPLEX(複合型映画館)は名称通り、複数の映画館(スクリーン)を使って多数の作品を同時平行で上映しているので、スタッフはタイムスケジュールに応じてそれぞれ持ち場の業務にあたります。作品の開始/終了時刻の連絡や場内清掃の状況のほかロビーの混雑具合などは逐一情報を共有し、全セクションが把握しなければシネコンの運営は成り立ちません。

シネコンセクションの概要は過去記事のFile.72 セクション配置File.73 セクション選びをご参照ください。
本日はセクション間の無線連絡についてご紹介します。

各セクションの相互連絡は無線機を使って情報の伝達・共有を行います。無線機というと仰々しいですが要はトランシーバー、ハンディサイズの携帯型無線機です。もちろん免許不要で誰でもすぐに使うことのできる簡易なモデルが用いられており、映画館ではモトローラ社とアイコム社の製品をよく見かけます。

映写は映写室という限られた空間にいるので、無線機に内蔵されたスピーカーで音声を聴取しますが、常に接客状態にある他セクションはイヤホンを使用します。映写スタッフもロビーに出るなど映写室外ではイヤホンを使用します。

混雑時はどのセクションも持ち場の対処で精一杯になるために、無線機を使って随時他のセクションと連携を取り合わないと現場は混乱をきたします。そこで主に映写とフロアのスタッフが連絡を取り合い入退場時間を制御して、チケット売場やコンセッションがそれに付随して全体の動きを作っていきます。入退場の時間が読めれば、他のセクションも具体的に動くことができるのです。

やりとりで多いのは「上映開始/終了時刻」の報告、「映写の上映準備完了とフロアの清掃完了」の合図でしょうか。これに加えてイレギュラーの事態や混雑のときは他セクション同士の応援要請もよくありますね(参照 File.93 人海戦術)。例外として通常の業務連絡以外の通信、たとえば機密に関わることや金銭関連の内容には無線機は使用せず、口頭でやりとりします。

実際にどのようなやりとりがあるのか一例を見てみましょう。


・オープン時のやりとり

マネージャー:まもなくオープンします。各セクション準備は良いですか?

全セクション:開店準備完了です

マネージャー:オープンします!

オープン直前に全セクションに対して準備が完了しているかの最終確認が行われます。このとき全てのセクションがいつでもお客様をお迎えできる状態でなければなりません。具体的に言うとボックスはチケットが販売できる、コンセッションは飲食物をすぐに提供ができる、フロアはロビーの整備をして入場ができる、映写は上映準備ができている状態を指します。


・上映開始前

映写:『めがね』まもなく予告編上映開始です

フロア:了解

映写:『めがね』まもなく本編開始です

フロア:了解、ボックスの方はお客様へのご案内をお願いします

ボックス:『めがね』本編直前了解です

映写:『めがね』本編に入りました

フロア・ボックス:『めがね』本編、了解です。本編確認します

フロア:3番スクリーン本編確認完了、異常なし

映写:映写了解しました

上映開始時刻が近づくと、映写は予告編上映開始を伝達します。映写以外のセクションには上映が始まっているかどうかは分からないので大切な連絡といえるでしょう。予告編が始まっていることをボックスが認識していれば、後から来たお客様にもその旨を伝達することができて好ましいです。

本編が近づいたらロビーのお客様に本編間近であることをお伝えする必要があるので再度連絡します。この連絡が入ったらボックスではもうすぐ本編開始であることを来場者に案内したうえでチケットを販売します。
本編上映開始後はフロアまたは映写のスタッフが場内に入って正常な映写がなされているかをチェックします。怠ると、もしもミスがあった際には後手対応になるので必ず行います。


・上映終了

映写:『めがね』まもなくエンドロール開始です

フロア:了解です。3番スクリーンのごみ受けスタンバイOK

映写:『めがね』上映終了です

フロア:『めがね』終了了解です

上映終了時間が近づいてきました。エンドロールに入る手前で映写はその旨をフロアに伝達します。フロアスタッフはこの合図を目安にして劇場扉を開け、ゴミ受け台を用意してお客様の退出を待ちます(参照 File.40 圧縮回収)。この連絡がないとフロアスタッフのスタンバイが出遅れる可能性があるため、必ずエンドロール前に伝達します。お客様が退出し始めてからでは遅いのです。


・入場開始

フロア:3番スクリーン清掃に入ります

映写:了解です

フロア:3番スクリーン清掃完了です

映写:了解。3番スクリーン『ミス・ポター』セット完了です

フロア:了解。13:40から上映の『ミス・ポター』開場します

ポディアム:開場開始アナウンスします。

基本的にお客様が場内にいらっしゃる間は清掃作業は行いません。お客様が退出し終わったのを確認した後、場内の清掃作業を開始します。映写もしくはフロアスタッフが作業灯を点灯させて場内を明るくした状態で清掃を行います。

この間に映写は次に上映する作品の準備を行います。シネコンで主流のノンリワインド1台映写機は上映回ごとに作品を映写機にセットし、リワインド2台映写機なら再セットは不要です。作品が変わるときはどちらのタイプの映写機もプリントのセットや上映設定を変更します。

映写準備と清掃が完了すればポディアム(フロアリーダー)に開場準備完了を伝達して、館内アナウンスで入場開始をお客様にお知らせします。

ステータスパネルがフロアやコンセッションに装備されている劇場であれば、無線連絡が遺漏しても各セクションのスタッフが映写状況を把握することができるのですが、映写スタッフ以外でパネルの見方を熟知しているスタッフはあまりいないようなので役立っているとは言い難い設備かもしれません。


シネコンはこのようなサイクルを繰り返しながら各セクションが連動して運営を行っています。フロアや映写の全スタッフは無線機を携帯していますが、ボックスやコンセッションはセクションリーダーのみが携帯していることが多いようです。上記のやり取り例ではコンセッションは登場しませんが、上映終了の伝達は次回入場開始の前段階を意味するので、調理量や物品補充をするタイミングとして活用されます。

一方で支配人を中心としてマネージャー等の管理職はこれらのやりとりを把握して、随時アドバイスや指示を出してスムーズな運営ができるように導きます。混雑を察知すればすぐにロビーフロアに出て社員自らが先頭に立つことも珍しくありません。ほとんどは現場のリーダーを中心としたスタッフの裁量に任されていますが、混雑時は事務所からの指示と現場での監督を織り交ぜることで現場を効率的に管理していきます。

単純に見えるこの無線連絡。しかしシネコンは単館に比較して上映回数がとても多いので無線連絡も実際は複雑に入り組みます。

たとえば10スクリーンのシネコンがあって1スクリーンで5回の上映があれば一日に全50回の上映がある計算になり、上記のような無線連絡が時間差で50回に渡って入り乱れるわけです。当然、業務連絡や問い合わせ、呼び出しなどのイレギュラーな通信も入ってくるので勤務に慣れないうちは次々と押し寄せるお客様や入れ替わる作品の動きについていけなくなると思います。

長々とやりとりをしていれば、重要な通信が遮断されてしまうこともあるので手短に用件を伝えることがポイントですね。また、上記例に見られるように言い手と聞き手が作品名を復唱するのは、勘違いや混乱を防ぐために行います。同時に複数の作品がスタートするときは聞き間違いを防ぐ点で重要な意味を持ちます。

常時イヤホンで無線通信を聞きながら接客を行うのは慣れないと難しいもの。
想像してみてください。
「本日はご来場いただきましてまことに…」とアナウンスをしている最中に無線で「7番スクリーンで携帯電話の落し物がありました。『HERO』16:20の回でau、色は白、メーカーは~」と飛び込んできたら!?もちろんアナウンスしながら無線も聞き取るようにするべきなのですが、これは結構難しいです。
コンセッションなら「ポップコーンセットのコーラとハーゲンダッツのバニラを2つ。ポップコーンはバターかけてトレーもください」とお客様からオーダーを取っているときに無線
「コンセの方へ、2番と5番のレジは金額を確認してクローズしてください。あと倉庫にパンが10ケース届いているので5階の冷蔵庫に入れて納品書を事務所に持ってきてください」などときたら…?お客様にオーダーを聞き返すわけにもいきませんから、このときは接客優先が望ましいです。慣れてくると両方同時に聞き取れるようになります。

接客をしながら無線機を自由自在に使いこなすのは最初は難しいですが、慣れれば心強いパートナーになり、いつしか無線機を持たずに現場に入ると不安を覚えるようになります。無線機を常時持っているフロアスタッフがコンセッションに異動した際は無線機を持たないことに違和感を感じることがあるようです。

時間が来れば入場が開始されて、定刻に上映がスタートする。終了すればスタッフが出口でごみを回収…。映画館で当たり前のように行われている作業のその裏には、セクション同士の緊密な連係プレーが存在しているのです。

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2007年8月16日 (木)

File.96 はじめての映写

映画館の仕事でいちばん地味な仕事の映写。今日は映写のお仕事について触れようと思います。

映写の基本的な仕事は映画上映機器の操作や上映準備をして映画を上映することです。設備機器の自動化が進んだおかげで現代は誰でも比較的容易に上映操作が行えるようになりました。

自動化が進んだとは言っても上映業務をコントロールするために人間の存在は不可欠です。上映機器の機能が高度化するのに伴って、映写作業の多くを機械に任せられるようになったとはいえ、細かな操作や準備作業は今も人間の手作業が生きています。

ベテランと呼ばれる映写技師にも入門者の頃がありました。皆、上司や先輩の指導を受けて経験を積み、一人前の映写技師へと成長していきます。映画『ニュー・シネマ・パラダイス』では主人公トトが映写の仕事を覚えていく場面があり、映写畑の者には感慨深いですね。
はじめて映写の仕事に就く方の多くが映写機の操作は未経験。懐かしい8mm映写機の経験がある方は大勢いらっしゃると思いますが、35mm映写機はほとんどの方がはじめてですね。多くの人が同じスタートラインから仕事を覚えます。

ビデオデッキやDVDプレーヤーと違い、フィルム映写機は扱いの習熟に時間を要すため映画館は映写研修要領に沿って新人研修を実施して一人前へと指導していきます。研修要領の内容は各映画館によって様々ですが、いずれも最終的な目標は“安全確実に高品質な映写業務を遂行できる”ことにあります。

・研修内容について

研修の際は最初に映写室と劇場内を見学してもらいます。映写室は一般に公開されることは稀ですから、映写を志望して入社した人ならば感動と興奮の連続かもしれないですね。シネコンでは広い映写室に映写機器がずらっと並んでいて壮観です。映写機と同様に映写室も近代化が進んだので『ニュー・シネマ・パラダイス』のような昔の味のある映写室はシネコンにはありませんが、室内が薄暗い他はいたって快適な環境が整備されています。

次に基本的な映写研修内容のガイドラインをご説明します。

映写研修は運転免許教習に似ていて、いわゆる「実技」「学科」の組み合わせで構成されています。
実技は映写機の取り扱いや音響機器の操作、トラブル対応などの身体で覚えていく内容が中心。学科は上映の仕組みや理論、サウンドシステムや機械知識など机上で覚える事柄となっており、研修の進め方は指導者によって個性や違いがあるのがおもしろいところです。なかにはロクに研修をせずに実務を任せてしまう映画館もあるらしいですが、作業内容に不安が残りますね。

・実技

映写機が自動化されているとは言っても、研修をせずに誰でもすぐ扱えるほど単純な構造ではありません。


映写機ってこんなふうになってるんです

画像の映写機は、フィルムのセット手順が比較的単純なモデルです。単純とは言ってもはじめて見る方には構造や機構はよく分からないと思います。映画を上映するには多数ある歯車やローラーの順序や方向を間違えないようにフィルムをセッティングしなくてはなりません。間違えると事故の原因になってしまいます。

映写機へのフィルムのセットは最重要項目。映写の基本なので繰り返し練習を行います。最初のうちはフィルムの経路が覚えられずにとても時間がかかってしまったり、誤ったセットを行ってしまうこともよくあります。
研修中に間違えることはとても良いことで、同じミスを繰り返さないためのステップアップにつながります。反復して練習をしているうちに身体が自然にセッティングを覚え、スムーズに作業が行えるようになり、同時に手順や作法に個人の多少の癖や個性が出てきます。

映写機のフィルムセットをマスターしたらオートメーション(映写機、音響システム、劇場内設備等の動作管理をするコンピュータ)の扱い方を学び、上映の開始から終了までの一連の流れをコントロールする方法を学びます。手動操作がメインだった昔は実技で覚えることが多かったのに対して、自動化された現在の映写機ではコンピュータの操作が多少なりとも求められます。

・学科

実技と平行して学科も学びます。覚えることや専門用語が多いので興味がない人には少し酷かもしれませんが映写に興味のある人は知識の吸収が速いように感じられます。興味のない人には関心を持ってもらうように工夫して研修を進めるのは指導者にとって大切な仕事ですね。仕事に対する興味を持ち合わせていないスタッフによる映写の運用はリスクを伴い品質管理面等で不安材料となるのです。

学科は実技をサポートする理論武装がメイン。その中心となるのは映写技師としての心構えや責任の重要性などのマインド面の教授と、映写機の機構や全体システムの構成把握、上映作業の順序やサウンドシステムおよびフォーマット等の実技に付随する知識の習得です。

お客様から映写の質問を受けたときに回答できるだけの知識は研修中にマスターしておくことが望ましいといえます。たとえばサウンドフォーマットの種類、スクリーンのサイズと客席からの視野、客席数などは日常的に問い合わせがある事柄なので映写以外のセクションも簡単な研修で学ぶことが多いです。詳しいお客様でない限りはこれ以上の難解な質問はないので基本的な知識だけで最初は充分です。覚えることが多い研修期間は、全てをマスターしようとするのではなく、習得内容を厳選して覚えていくことが上達への近道だと思います。

・実務

そしていよいよ実務デビューの日。
映写機の点検とセッティングを済ませて入場開始のシグナルをフロアスタッフに送ればお客様が続々と入場してきます。緊張のあまり心臓はバクバク…心拍数が極端に上がります。
上映時間直前に最後の点検を済ませるといよいよ上映スタートで緊張の一瞬!ファーストカットが銀幕に映写された瞬間の達成感は言葉では言い表せないものがあります。上映が無事に終了すると大変な疲労感はありますが同時に心地よい満足感で充足され、長い研修の疲れも吹き飛ぶことでしょう。

苦労してセットした映写機ではじめてスクリーンに映像が映し出されたときに「感動した」という話をよく耳にします。フィルムに焼き付けられている1コマ1コマの連続画像が映写機を使うことによって映画としてスクリーンに生命を吹き込む、その不思議な感覚を味わうのは映写ならではの醍醐味のひとつです。

映写の仕事を続けていくうちにこのような「はじめての映写」で味わった緊張感と達成感は慣れによって薄れていき、ベテランへと成長します。映写に携わる者はいつも緊張感を持って仕事をしたいものだと常々思います。そのほうが完成度の高い仕事になると考えています。

いかがでしたか?映写の仕事は覚えることが大変多く、慣れるまでは辛いこともあるかもしれませんが、興味のある方はぜひ映画館の求人募集に応募していただきたいですね。現在の映写の仕事は基本的に誰でもできるように簡略化されているので、研修を受ければすぐに上映業務は行えるようになります。

ただし、研修からの一人立ちはスタートラインに過ぎません。そこから“高みに上る=付加価値の高い映写”をお客様に提供できるかどうかはその後の個人の貪欲さと熱意にかかっています。映写の良し悪しが分かるお客様が増えて、映像・音響共に優れた映画館が意図的にチョイスされるのも珍しくなくなったことは、映写のレベルが映画館全体の評価に直結する時代になったことを意味しています。

高品質な映写による映像と音響は映画に生命を吹き込む重要な要素で映写技師としての大切な仕事。はっきり言って大変で、緊張する仕事だと思います。お客様に対して自負のある映写を行うには相応の緊張感が必要ですが、この繰り返しによって成熟した品質を誇る映画館が生まれてくるのではないかと思います。
我こそは!という方はぜひ映写の仕事に興味を持ってください。映写の仕事に必要なのはその熱意と興味なのですから。

制作者から映画を預かってお客様にお届けする。映写の仕事は映画の画竜点睛をつかどる夢のあるものだと個人的に感じています。映写が情熱と誇りを持って仕事に徹することで映画は完成し、日の目を見るのです。この責任ある仕事に力を注げる人こそ、“映画館の心臓・映写”に必要な人材と言えるのではないでしょうか。

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2007年7月 1日 (日)

File.94 事故報告書

本日は映写スタッフにとって怖い対象、映写事故報告書についてご紹介します。

映写係のお仕事とは、お客様に対し快適で高品質な映画鑑賞環境を提供すること。そのために映写係は普段から劇場機材をメンテナンスして設備維持を行い、非常時のための対応シミュレーションで緊急事態に備えるなどの対策をとっています。こうした日々のメンテナンス、訓練の積み重ねが高品質・安全な映写業務の根幹となるのです。

映写事故は発生しないほうが良いと誰もが願っています。しかし予期せぬ映写機材トラブルや天変地異、緊急警報の鳴動、電力供給の寸断など不可避のアクシデントに見舞われることも実は珍しくありません。通常お客様が映写事故に遭遇する確率は非常に低いですが、映写係を務めていると1度や2度はこのような人的ミスに因らない映写事故を経験するものです(なぜかトラブルが多い劇場もありますけど)。
人的ミスは事故原因がその場で判明するので対応・復旧策をすぐに取れるのですが、突然の機械トラブルや天変地異などは原因の特定・復旧に時間がかかることが多いようです。

天変地異、いたずらによる非常警報鳴動等映画館に非がない原因による映写事故でもお客様にとってそれは関知することではなく、正常な映写が行えなかった時点でサービス提供に瑕疵があるので、原因はどうあれど映写担当には胸の痛む状況です。
このような不可避原因のトラブルでも説明すればご理解いただけるほど世の中甘くはありません…。映画館として映画をきちんと提供できなかった点は事実なので丁重に謝罪するしかありません。スタッフにとってはやり切れない思いでいっぱいとなります。

映写事故の定義については担当者によって見解が異なり決まっていません。確実に映写事故の範疇に入るのは映像や音響の明らかな不具合、上映開始時間の極端な遅延や一時中断と中止、本編中の窓違い(こまずれ)その他上映に支障のある不具合や状況が発生したときが該当します。その他の内容については現場で判断しているようです。

映写事故が発生したら理由の如何に関わらず映写事故報告書を作成するのが通例。いつ事故が発生し、どのような対応を行ったかを記録しておけば以後の運営の資料となり、後進の指導にも役立ちます。事故内容を精査すれば再発生を抑止することも可能です。

事故報告書の記入で重要なことは、映写スタッフが読んで事故当時の状況と時間経過、それによって発生した損失と対応方法を理解できるようにすること。事故発生直後に書くと気が動転していて正確な記述ができないことも考えられるので、気持ちが落ち着いてから作成したほうが良いでしょう。映写事故が発生すると映写係に相当な心身圧迫が生じるために記憶や時間感覚が曖昧になりがちなのです。

記述の基本は6W1Hです。
When(いつ)
事故発生時間と発生状況
Who(だれが)
事故発生時の人員配置と映写担当者
Where(どこで)
事故発生スクリーンナンバーと、機材・事故概要
What(なにを)
事故発生による影響
How(どのように)
対処と復旧方法
Why(なぜ)
事故原因
Whom(だれに)
今後のスタッフへの周知と今後の対応方針

小論文のTipsみたいになってきました(笑)。映写事故対応の間、お客様は状況が分からず困惑していることが多いので、映写係は迅速に処理することが大切です。そしてその時間経過を漏れなく記録しておけば対応の段取りも後々まで分かるので都合が良いです。また報告書とは別にレポートを作成して補足記述を行うこともあります。

時間経過が分かり対応の内容を事細かに記述していくのが基本となりますが、事故の渦中は復旧作業に専念して状況の記憶が曖昧になることもあります。そのため出来るだけ事故の際は映写室に複数の人員(他スクリーンの上映に必要な人員を除いて)を配置して状況記録を取っていくと事故報告書が作成しやすくなります。

映写事故報告書例
※この報告書はあくまで例です。劇場名、作品名、号数、内容等すべて架空のものです。記述内容も乱雑ですので参考例としてご覧ください。

複数のサイトを保有する映画館では事故の発生報告と事後事故報告書を本社に提出し、サイトの安全管理の指導資料に活用しています。そして系列サイトに事故報告書を配布して情報の共有を行い、今後の運営の参考として利用するなど映写教育用途に使用されています。
他サイトの事故は対岸の火事ではなく、明日はわが身として受け止めなければいけません。直後に同様の人的事故を起こしてしまうと情報共有の意味がありませんからね。

オープン直後のサイトだと不名誉にも事故報告書が量産されることもあるようです。最初は映写係も慣れていないので、経験があれば未然に防げたはずの事故が起こることもあって責任者の苦労が絶えない例もしばしば見受けられます。

停電や自然災害的要因など突発的な原因による映写事故を撲滅することはできません。事故から学び、活かすことで対応をスムーズにすることはできるので、映写係は事故報告書の情報を共有し、自己の技術に取り込むことで精進を続けながら業務を行っています。もし鑑賞中に映写事故に遭遇してもどうか暖かい目で見てあげてください。焦らすとさらにドツボにはまって事態が悪化することもよくありますので…。

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